欧州委員会の決定
去る8月30日、EU(欧州連合)の機関である欧州委員会は、EU加盟国であるアイルランドがアップルに対して違法な税務上の優遇措置を行ったとして、アイルランドに対して優遇措置により与えた利益の回収を求める決定を行った。アップルが優遇措置の結果得た利益は130億ユーロ(約1兆4800億円)に上るとされている。
欧州委員会は、今回の決定に向けた正式な調査手続を2014年6月11日に開始したが、2013年6月の時点でアイルランドに対して最初の情報提供の要請を行っている。欧州委員会内部では、さらにそれ以前から検討が行われていたことになる。今回の決定は、3年以上の調査期間を経て出されたものである。
ヨーロッパにおけるアップルの税務構造
欧州委員会のプレスリリースによれば、今回問題とされた優遇措置は、アイルランドの税務当局による2つの裁定(rulings)である。これらの裁定により、アップルは1991年以降、アイルランドでの納税額を大幅に圧縮することが可能となった。
本件の税務面に関する議論の詳細に立ち入ることは本稿の目的ではないが、簡単に見てみると、今回の決定で問題となった裁定は、アイルランドで設立されたアップルの子会社であるApple Sales International(アップルSI)及びApple Operations Europe(アップルOE)に関するものである。アップルSIは、ヨーロッパのほか中東、アフリカ及びインドにおけるアップル製品の販売を担当していた。アップルOEは、マック(アップル製のパソコン)の一部をグループ内向けに製造・供給していた。
ところが、これら2社の得た利益のほとんどは、アイルランド国外に設置されたそれぞれの「本店」に計上され、アイルランドでの納税対象から外されていた。しかも、アップルSI及びアップルOEそれぞれの「本店」は書類上記載があるだけで、従業員や事務所を持たず、特定の国に存在するものとされていなかったため、「本店」の利益についてはどのEU加盟国でも課税されないという状態であった。アイルランド税務当局による前述の2つの裁定は、このような利益計上の方法を認めるものであった。
結果的に、アップルSIの利益全体を基準とすると、アップルSIに対して課税されたアイルランドの法人税の実効税率は、2003年に1%であったものが、2014年には0.005%にまで低下していた。今回の決定で回収が求められているのは、2003年から2014年までの間にアップルがアイルランドで納税すべきであった最大130億ユーロ及びその利息である。