国家補助の規制
EUにおいて国家補助、すなわち加盟国が特定の者に与える優遇措置は、一定の例外に当たる場合を除いて禁止される。一定の例外とは、例えば自然災害による被害の救済などである。今回の欧州委員会の決定は、アイルランド当局の2つの裁定について、アップルに他社よりも有利な税務上の地位を与えたとして、国家補助規制に違反するとしたものである。
欧州委員会によれば、同一グループ内や同一社内での利益の計上は、経済的実体を反映したものでなければならず、独立した企業間におけるのと同様になされなければならない。これに対し、アップルSIやアップルOEが経済的実体のない「本店」に利益のほとんどを計上していたのは、不自然であり何ら正当化できるものではない。両社の利益は、本来その全額がアイルランドで課税されるべきであった。このような計上方法を認めたアイルランド当局の裁定は、アップルに他社よりも大幅に少ない額の納税を可能としたものであり、EUの国家補助規制に違反するとされたのである。なお、アイルランドの一般的な税制(12.5%の法人税率など)は問題とされていない。
加盟国が違法な国家補助を行った場合、支出された補助金等は当該加盟国によって取り戻されなければならない。アイルランドには、欧州委員会の決定に基づき、優遇措置による利益をアップルから回収する義務が生じる。他方で、違法な国家補助の対象となった企業に対しては、補助金等が回収されるほかは、罰金などの制裁は行われない。つまり、本件で命じられた130億ユーロの回収は、アップルがアイルランド当局の裁定により受けた経済的恩恵を吐き出させるものであって、アップルに対して制裁を加える趣旨ではない。今回の決定は、少なくとも法形式上は、あくまでもアイルランドに向けられたものであり、アップルに向けられたものではない点に注意を要する。
違法な国家補助の回収の対象期間は、欧州委員会による最初の情報提供の要請がなされた時から10年までさかのぼることができる。本件では、アイルランドに対する最初の情報提供の要請が2013年に行われたため、回収の対象期間は2003年からとなっている。なお、対象期間が2014年までとされているのは、2015年にアップルがアイルランドにおけるグループ構成を変更したことから、問題となったアイルランド当局の裁定が失効したためである。