2024年7月18日(木)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年2月17日

 とにかく黒澤の絵の美や迫力というのは、雨だったり、土埃(つちぼこり)だったり、光だったり、ね。そういうものを構成していく力でしょう。

「これは映画だ!」の場面を求めて

身を乗り出して語る原正人さん

 黒澤さん、自分でも言うんだけど、「ときどき、映画になるんだよね」って。1本の映画を撮っている間に、ですよ。そう言うんです。

 「これは映画だ! っていうシーンがある」って言うんですよ。そういうところをとっつかまえるために自分は映画を作ってるんだって、どっかでおっしゃってましたね。

 「映画だよね」とか、「映画になったよね」って言うんですよ。あるシーンの撮影を終えてね。そういう場面をつかまえたくて、自分にはまだ道を究めることができていない――アカデミー賞の受賞スピーチで確かそんなことを言ってますよ。

司会 1989年のことですね。ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグの2人が賞の手渡しをした…。生涯の業績を称えた栄誉賞でした。

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 そう。あのとき、「私は、まだ映画がよくわかっていない。まだ映画というものを、はっきりとつかんでいない気がする」ってね。

 例えば僕が経験した場面で言うと、『乱』(3)を撮ってたときです。「三の城」っていう、セットでつくった立派な城が、戦いで炎上する。で、骨肉の争いをする三兄弟の次男、次郎の騎馬軍勢が、城を取り囲んでぐるりと回る。あれは脚本で言うと夏のシーンなんです。
 

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 ところが実際には真冬で、ロケ地は積雪ですよ。どうしたかっていうと、雪かきをして。すると地面にうっすら残った雪は、だんだん溶けるわけです。 

 溶けて、地面を濡らしてる。そこに太陽の光が当たると、なんとこお、靄(もや)が立ち上って、これが騎馬軍にとって絶妙の効果になったんですね。あんなことって、計算してできるものじゃない。

 黒澤さんっていうのは、そういうシーンをとっつかまえるんです。いったいどうやって撮ったんだ、これは、というようなね。

『乱』(3)
原正人氏がプロデュースを手がけた日仏合作映画。1985年に公開された黒澤明監督の時代劇最後の作品。米アカデミー賞監督賞、撮影賞、美術賞の3部門でノミネートされた。


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