欧州の大国フランスを見るとさらに、心の広さがわかる。オランド大統領は、その名の通り、オランダ人であったのだろう。宗教戦争のころ、ドイツ、オランダにいたカトリック教徒が、フランスにやってきたのだろうか。逆にラフォンテンヌと名乗るフランス系のプロテスタントがドイツに移住。末裔がドイツのシュレーダー前政権で蔵相になったこともある。
前のフランス大統領ニコラ・サルコジのお父さんはハンガリー人だが、誰も隠し立てはしない。人物本位だ。ひそひそ言う人もいない。ハンガリー人も自慢したりしない。自然体だ。今でも、重要な地位にあると思うが、フランス財務省の高官だったオボレンスキー女史は、ロシアの名家の出だろう。財務大臣だったモスコビッチもその名の通り元はロシア人だ。
バラデユール首相はトルコ系であった。フランスの政治家、芸術家、官僚、学者は、本人または、その親が外国から来た直輸入型もたくさんいる。
考えれば、女王様もイタリアのメディチ家やオーストリアのハプスブルグ家からきているのだ。国が消えたアルメニア人もパリには多い。アルメニアといえば、先日92歳で来日したフランスのシャンソン歌手シャルル・アズナブールは、本名はアズナブリアンで全くのアルメニア人。話がそれるがソ連の外相だったミコヤンも、剣の舞のハチャトリアンも、たぶんカラヤンも元はアルメニア人であろう。
村上春樹とイシグロカズオ
学者マリー・キュリー夫人はポーランド人だった。元はマリーではなく、マリアだったそうでフランス風に自ら改名した。シルビーバルタン、イブモンタン、ゲンスブルグ、イオネスコ、レオナルド・フジタ。フランスの懐は深い。もっと深い話を一つ。現在のフランスの首相はスペイン人だった。スペイン系ではなく純然たるスペイン人だ。事実上の中央銀行の総裁がスコットランド人であったこともある国だ。この件、歴史があるので、どこをどう押さえればよいのか、その一方で寸止めもできるのだろう。日本でそれを今やったら収拾がつかなくなるだろう。
たとえば、村上春樹を押しやりイシグロカズオがノーベル文学賞を取ったら、我がこととして日本でもお祝いするのであろうか。彼は日本人ではない、英国人だ。昨今、スポーツの選手で明らかに、外国人との混血である有力日本選手が多数登場している。芸能人も同様だ。政治家はどうなるのであろうか。結論はでない。
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