2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月14日

 面白い論説ではありますが、筆者自身が認めるように異端の説です。統合の理念の問題として、二階層のEUを採用することの是非があります。既に、ユーロとシェンゲンのように速度の異なる統合が認められてはいますが、その領域は限定されています。そもそもドイツ、イタリア、ベルギーなどの諸国に政治統合にむけてひたすら前進しようという意図があるのかどうか疑問であり、これら諸国に二階層の構造に作り替えねばならない動機が欠如しているように思います。また、実際問題として、既に複雑なEUを二階層に改造する作業が可能なのか、改造したEUが機能するものか疑問に思われ、現実的な選択肢とは思えません。

EUこそ改造すべき

 見方を変えれば、この論説は英国を離脱させないために、英国の都合に合わせてEUを改造するよう提案するものです。確かに、英国にとっては単一市場と外交安全保障政策での協力さえあればそれで充分で、残りはいらないということでしょう。しかし、ヴィセグラード4ヵ国とて、そこまで欲しているわけではないでしょう。EUに権限が集中しているとしてこれを喜ばない雰囲気は英国にとどまらず拡散している、という筆者の観察は恐らく正しいのだと思いますが、そうであれば、EU全体として加盟国への余計な介入を避けるという方向に動くでしょう。

 筆者は英国にEUを離脱させたくないのだと思いますが、そうであれば、このような大袈裟な提案をせずとも、人の移動の自由の原則は維持しつつも、移民急増の場合の「緊急ブレーキ」の仕組みをEUに認めさせ得れば、残留の途が開けるのではないかと思います。

  
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