前向きに読み解く経済の裏側

2016年11月1日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

分業のメリットはそれ以外にも多い

 上記のように同僚との間で協力して、お互いが比較優位のある仕事に従事することを、分業と呼びます。分業の最大メリットは、上記のようにお互いに不得意な(比較劣位の)仕事をしなくて良いことです。しかし、それ以外にもメリットは多数あります。

 Aは、多くの資料を作ることになります。似たような資料を顧客向けにアレンジするのであれば、コピペできる部分も多いでしょうから、作る資料数が2倍になっても仕事量が2倍になるとは限りません。それから、多数の資料を作っていれば、資料作りが上達して短時間で出来るようになるかも知れません。更には、機械化が可能になるかも知れません。大量に資料を作るなら、過去の資料をスキャンして加工する機械を買うことが採算に合うようになるかも知れないわけです。

 Bは、多くの営業訪問をすることになります。当然、営業訪問に慣れて来ますし、ノウハウも溜まって来ます。3度の訪問で注文がとれていたのが、2度の訪問で注文が取れるようになるかも知れません。もっと単純に、AとBの訪問先が同方向であれば、物理的な移動距離も短縮できるかもしれません。

 今ひとつの可能性も考えてみましょう。多くの場合、Bは資料作りが遅いだけではなく、資料作りが嫌いで、しかもBの作った資料は顧客の評判が今ひとつでしょう。そうであれば、Aが資料を作ることによって、Bは資料作りのストレスから開放され、顧客の反応も良くなるでしょう。

 チョット脱線して、上では論じなかった交渉の話をしましょう。そうなると、交渉ではAが有利になります。「自分の残業は1時間40分減り、君の残業は30分減る。それで不満があるなら、交渉は決裂だ」と言えば良いのです。

 Bにとっては、残業時間が減ることよりも、資料作りのストレスから開放される方が重要かも知れません。それならば、交渉決裂は何としても避けて、Aの言いなりになった方が良い、と考えるかも知れないのです。

同僚との分業と国際間の貿易は、本質は同じこと

 一般に先進国は、技術力がありますから、何を作っても上手ですし、途上国は、技術力がありませんから、何を作っても下手です。では、先進国はすべての物を自国で作った方が得か、と言えば、そうではありません。途上国に比較優位のあるものは途上国が作り、先進国に比較優位のあるものは先進国が作る方が、お互いのメリットなのです。

 農作物も、肥料やトラクター等のことを考えれば、日本で作った方が途上国で作るより多く出来るのですが、自動車の方がその差が更に大きいので、日本が大量の自動車を作り、途上国が大量の農作物を作り、交換することで、お互いのメリットとなるのです。

 同僚との分業の場合には、分業のメリットをどう分け合うか、という交渉が必要でしたが、貿易の場合には、市場で為替レートが決まるので、それを用いて貿易すれば、どちらがどれだけ利益を得るかが自動的に決まって来ます。その意味では、同僚間の分業よりも交渉が楽だ、と言えるでしょう。しかし、実際には自由貿易は難しく、様々な輸入関税などが設定されています。それは、自由貿易で不利益を被る人がいるからです。

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