仕事の速い同僚と協力して仕事を進めれば、仕事がはかどり、早く帰れるでしょう。でも、同僚の仕事が遅かったら、協力せずに一人で仕事をこなした方が早く帰れるような気がしませんか? 場合によっては、そうでもないのです。今回は、仕事の遅い同僚とでも、協力し合うことで、仕事が早く終る場合がある、という話をしましょう。
お互いに得意な仕事をすることで、不得意な仕事を免れる
読者をA、同僚をBとしましょう。Aは、1時間で営業書類を3枚作り、1時間で営業訪問を3件こなします。Bは1時間で営業書類を1枚作り、1時間で営業訪問を2件こなすとします。
Aは5時間で15枚営業書類を作り、5時間で15件の営業訪問をこなし、2時間残業して帰宅します。Bは6時間で書類を6枚作り、3時間で6件の営業訪問をこなし、1時間残業して帰宅します。
両者合計で、21枚の資料を作り、21件の営業訪問をしているわけです。いま、両者が協力関係を結び、Aが7時間で書類を21枚作り、1時間20分で4件の営業訪問をこなし、20分だけ残業したとします。Bは17件の営業訪問をこなして、30分の残業となります。
お互いが協力したことで、両者とも残業が減ったのです。この利益は、Bが非常に不得意な資料作りを免除され、不得意な(つまり資料作りに比べればマシな)営業訪問に特化できたことによって、生まれたものです。このように、仕事の遅い同僚でも「まだマシな」業務に特化することで利益が生じるのですが、言葉が今ひとつなので、経済学では「まだマシな」を「比較優位のある」と呼ぶことにしています。
交渉は、双方に利益がなければ成立しない
大事なことは、どちらか一方だけが得をする場合には協力関係の構築は難しいので、協力の交渉は、必ず両方が得をするような条件で行われる必要がある、ということです。協力することによって、二人合計で得られる利益(本件で言えば残業時間が2時間10分短縮したこと)を、独り占めしようとすれば、相手が合意せず、交渉は成立しないので、自分が利益を得ようと思ったら相手にも利益を配分しないといけない、ということです。
本件の場合、Aの残業が1時間40分減り、Bの残業時間が30分しか減っていませんから、Bとしては「Aが営業訪問を5件こなし、自分は残業せずに定時帰宅する」という選択肢を提示して交渉する事は可能です。結果としてどちらの主張が通るのか、あるいは最悪のケースとして交渉が決裂して元通りに残業するのかは、両者の交渉術にかかっていますので、今回は触れないことにしましょう。