3月に入ってギリシャを巡る情勢が俄かに緊迫してきた。ギリシャに貸し込んでいる欧州連合(EU)の大国ドイツの動向が焦点だ。3月5日、ベルリンを訪ねたギリシャのパパンドレウ首相と会ったドイツのメルケル首相は「ユーロ圏諸国によるギリシャへの直接の金融支援は不要との認識で両国は一致した」と語った。ギリシャが本気になって財政再建に乗り出すまでは、甘やかさないという意思表示だが、これでギリシャはもつのかという懸念が広まり、外国為替市場では欧州通貨ユーロが売り込まれた。
ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン。英語の頭文字をとってPIIGSと呼ばれる欧州諸国は、財政赤字問題が持病である。先刻承知なはずの問題がここへきて爆発したのは、背伸びして欧州単一通貨ユーロに加わった矛盾が露呈したというほかない。
ユーロの体制下では、通貨と金融政策は一本化されているが、財政政策は各国バラバラ。そこでEUの約束事として、毎年の財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内、公的債務残高を同じくGDPの60%以内に抑えることになっている。ギリシャはその約束を守っていると見せかけるために、政府が財政赤字の粉飾決算を行っていた。
国内の宝くじ収入を担保にカネを借り、利息の支払いは為替取引ということにして、表に出ないようにしていた。その取引に手を貸していたのが、米投資銀行のゴールドマン・サックス。ギリシャとゴールドマン─2つのGが欧州の悪役にされている。
とはいえ、ギリシャ問題がここまで膨らんだ裏には、少しでも高い金利を求める投資家の利回り追求がある。特にユーロ圏に属する欧州の投資家は為替変動のリスクがなく、高めの金利が手に入るということで、ギリシャ国債をしこたま購入した。
しかも、リーマン・ショック後の金融危機に対応して、欧州中央銀行(ECB)が異例の金融緩和を実施し、潤沢に資金を供給していた。ギリシャ国債保有者の7割が国外投資家であるのはその帰結である。野放図な財政赤字を支えていたのは、こうしたカネ余りのメカニズムなのである。
事態は他のPIIGS諸国にも当てはまる。リーマン・ショック後はドルに代わる基軸通貨かと持て囃されたユーロだが、今や信認の危機に直面しているといってよい。よもやユーロが解体することはないにせよ、域内に爆弾を抱えていることが露呈したことの影響は大きい。ドルに対してばかりでなく、対円でもユーロは釣瓶落としだ。
八方塞がりで国債購入
ギリシャの公的債務のGDP比は120%。対する日本の公的債務のGDP比は200%に迫る勢いだ。国会で審議中の2010年度予算をみても、92兆円強の歳出に対し、税収は37兆円余り。埋蔵金などを取り崩しても追い付かず、44兆円強の国債を発行して辻褄を合わせた。米格付け会社のS&Pは現在AAである日本国債の格付けの引き下げを検討している。