2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年3月24日

5億人まで減らさなければ先進国には入れない

 実はこの問題は、上述の3400万人の「剰余男」に限られたものでもない。

 冒頭から紹介した成都電子科技大学でのバカ騒ぎが発生した同じ日の3月11日、中国社会科学院学部委員、世界政治経済学学会会長の程恩富氏は、中国の人口問題に関する重大な発言を行った。 

 3月12日付の「華商晨報」が伝えたところによると、程氏は中国の先進国入りの見通しについて語った中で、「総人口を5億人程度にまで減らさない限り、中国が今世紀中に先進国の仲間入りをすることは難しい」との見方を示したという。

 程氏はその理由として「GDPの総額の問題でなく、国民1人あたりの国力や資源占有量の問題である」と説明し、「今世紀末までに先進国並みの生活水準に達することは非常に難しい」と結論づけている。

 程氏はさらに、「まず人口を15億人程度にコントロールし、その後、厳格な計画出産政策によって、なるべく速やかに5億人程度に減らす。それによって100年以内に先進国に追いつくことが可能になる」との見方を示し、「このまま人口増加が続けば、GDP成長と国民の生活水準向上を維持するため、世界の資源を大量に獲得することを前提にしなければならず、そうなれば世界の政治・経済に重大な影響を与えてしまう」とも説明したのである。

一人っ子政策で減った人口はたったの4億人

 それはまた、看過できない重大な発言であろう。中国のトップクラスの専門家は、「総人口を5億人に減らさない限り先進国入りは無理」との見通しを示した上で、「厳格な計画出産政策によって」、総人口を5億人にまで実際に減らしていくことを提言しているのである。

 しかし、普通の「計画出産政策」を取っただけでは、まもなく15億人に達するはずの中国の総人口をその3分の1に減らすようなこと、つまり10億人の人口を減らすようなことは、どう考えてもまず不可能であろう。程氏自身もこの同じ談話の中で指摘しているように、中国が過去30年間にわたってもっとも厳格な計画出産政策である「一人っ子政策」を実施してきたが、それによって減らされた人口数はせいぜい4億人程度だったからである。

戦慄の未来像は否定できない

 つまり、理論的にいえば、国内で大規模な戦争でも起こらない限り、10億人の人口をこの世から消して総人口を5億人に減らすようなことはまずあり得ない。もし中国は先進国入りを目指してこのような目標をどうしても達成したいのであれば、やはり大量の人口を中国以外の土地に送り込む以外に方法はない。要するに、上述した「3400万人の剰余男」の「処理法」と同様、中国にとっての人口問題の根本解決は結局、大掛かりな「対外植民地戦略」の推進とならざるを得ないのであろう。

 しかし、このような国家の「植民地戦略」の推進に伴い、数千万人単位、いや数億人単位の中国移民が周辺国に流れ込むようなことが現実となれば、それはまさに戦慄すべき未来像であろう。

 もちろんそれは あくまでも一種の理論的想定と、それに基づく未来のシナリオのシミュレーションにすぎないが、将来において、このシナリオは絶対現実にならない、という保証はどこにもない。とにかく、日本も含めた周辺国にとって、巨大国である中国の存在と動向は、場合によっては深刻な脅威となりうることだけはきちんと覚えておくべきであろう。

 

※次回の更新は、3月31日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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