2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2016年11月30日

過酷なアニメーターの労働環境
出所:日本アニメーター・演出協会「アニメーション制作者実態調査報告書2015」を基にウェッジ作成
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 クールジャパンの代表格であるアニメ産業においては、平均賃金は年収333万円(アニメーション制作者実態調査報告書2015)だが、アニメーターの動画を担う人々の平均年収は何と111万円。仕上げという工程は195万円、原画マンは281万円。この低賃金よりも驚くのは労働時間の長さだ。アニメに携わる従業員の平均労働時間は月262時間。350時間以上(普通のサラリーマンなら、月に約200時間も残業していることになる!)と回答した者は15%以上に及ぶ。

 このような過酷な労働環境で、持続的な産業として成り立つはずがない。同様に、ゲーム産業や漫画・出版産業などもアニメ産業に次ぐ悲惨な労働環境におかれている。しかも、コンテンツ制作の現場の海外シフトやデジタル化でCG制作の環境も満足に用意できない制作スタジオは、海外との競争に晒されてパソコンさえ従業員が自前で調達してくるという状況に陥る。

 その結果が、皮肉なことにコンテンツ産業の若返りを呼ぶ。もちろん、魅力的な産業であるため若者が集まりやすいという利点もある一方、30代で身体を壊す制作者が続出してしまうのが特徴だ。樹林氏が、制作の現場を見る者として、若者の使い捨てを平然と行う産業構造に政府の会議で正面から異を唱えたことは多くの制作者や業界人の喝采を浴びた。が、この分科会は、たった2回の会合を行って何ら議論が成熟することも結論が取り上げられることもなく閉幕してしまう。

 実のところ、この日本のクールジャパンを取り巻く環境は、企業自体がクリエイターをブラックな環境に置くことを前提に成り立っている側面がある。多くの若者の投稿動画で賑わうサービスを傘下子会社に持つ大手出版社では、日本のコンテンツの足腰ともいえるライトノベルの執筆者の管理や、その販売まで担う編集者を一斉解雇し、その一部を、別の子会社の人材派遣業者で再雇用する形でコストダウンを図った。経営合理化の一環としては優れた手腕とも言えるが、長い目でコンテンツ産業を見た場合、どうしても人材を使い捨てているように見える。


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