2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年12月20日

 米大統領選挙中、民主党全国委員会がサイバー攻撃を受け、多くの資料が流出しましたが、サイバー専門家は攻撃はロシアによるものと断定しました。選挙中、クリントン候補がロシアに対し強い姿勢を示したのに対し、トランプ候補は、「プーチンは強い大統領である、ロシアとの関係はうまくやっていける」などと述べました。ロシアがトランプ候補の当選を望んだとしても不思議ではありません。

安保の新しい課題

 米政府がロシアによる一層の選挙干渉を真剣に懸念した結果が、論説の指摘する公開および秘密裏の対露警告でした。結果としてロシアのサイバー干渉は無かったのですが、米政府筋はそれが、警告が抑止として働いた結果かどうかについての言明は避けています。サイバー攻撃問題にどう対処するかは、安全保障上の新しい課題です。

 サイバー攻撃は従来の通常兵器、核による攻撃と比べ、攻撃者の特定の問題をはじめ、目に見えにくい部分が多く、サイバー攻撃問題をどう管理するかは容易でありません。論説は一例としてサイバー攻撃に対する抑止の問題を採りあげています。抑止の典型的な例は核攻撃に対するものであり、攻撃された場合、相手に耐え難い報復をすると警告することで、相手に攻撃を思いとどまらせようとするものです。そのためには報復の能力と意思を相手方にはっきりさせておく必要があります。

 サイバー攻撃の場合はどうでしょうか。核の場合は報復の能力は、例えば潜水艦発射核搭載弾道ミサイルというように相手に示せますが、サイバーの場合は基本的に能力は目に見えず、核と同様に論じることはできません。今回の米国の対露警告が具体的に何であったかは分かりませんが、米国はロシアよりはるかにデジタル・インフラに依存しているので、サイバー攻撃で報復するのは賢明でないという見解が有力のようです。それでは何が報復手段でありうるのか、これは米国に課せられた重要な課題と考えられます。

 抑止の問題以外にも、サイバー攻撃問題をどう管理するかの問題は数多くあります。2015年のG-20サミットで、サイバー空間における国家の行動(当然サイバー攻撃も含む)には国際法が適用されるということで合意が成立したと言いますが、これが何を意味するかは明らかでありません。

 サイバー攻撃は、企業秘密の窃取と言った経済的動機にとどまらず、政治的動機に基づくものがますます増えることが予想されます。イグネイシャスは、別の記事で、米ロ関係について「冷戦は終わり、サイバー戦争が始まった」と言っています(The Cold War is over. The Cyber War has begun. WP, September 15)。サイバー攻撃をどう管理するかは喫緊の課題です。

  
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