2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年12月20日

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、11月15日付同紙のコラムで、米国の大統領選挙に対するロシアのサイバー攻撃による干渉をエスカレートしなかったのは、米国が強い警告を発したためである、と述べています。

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 10月31日、ホワイトハウスはロシアに対しこれ以上米国の大統領選挙をサイバーで干渉しないよう、秘密のホットラインを使って警告した。その後、ロシアは干渉をエスカレートしなかった。

 この警告は、本年米露政府間で行われてきたサイバーの瀬戸際政策の一部であり、ロシアの圧力に屈したと思われない形での関係の安定化が、トランプ次期大統領にとっての最大の課題の一つである。警告は、2013年に「核危機削減センター」の一環として作られた特別のチャネルを通じて送られた。米政府のある高官は、「それはロシアに対する極めて明確なメッセージであった。このチャネルを使ったこと自体がメッセージの一部であった」と述べた。

 この秘密の警告に先立ち、10月7日クラッパー国家情報局長官とジョンソン国土安全保障省長官が、ロシアの最高位の政府高官が、米国の大統領選挙に干渉するためのサイバー攻撃を認可したとの公の声明を出している。

 米政府筋はこの2つの警告の後、ロシアはサイバー活動を広げず、むしろ減らしたようだと述べた。ホワイトハウスはロシアが選挙当日サイバーで選挙を妨害するのではないかと恐れていたが、そのような干渉は無かった。しかし他の政府高官は、ロシアが追加的活動を抑止されたのかどうかを言うのは時期尚早であると述べた。

 米ロ間の秘密の接触は、両国間で高まっている対決の最新の事例である。オバマ政権は攻撃的なロシアによる事態を不安定化させる行動を抑制するような、サイバー空間における抑止の規範を確立しようと努めてきた。2015年のG-20サミットは、サイバー空間における国家の行動に国際法が適用されると述べ、ホワイトハウスはこれを前進であると考えた。米国は、この約束には攻撃と反撃のつり合いと巻き添えの被害の制限を守るような交戦規則の順守が含まれると主張しているが、オバマ政権はロシアがこれらの制限を無視していると懸念している。

 オバマ政権のロシア専門家は、次期政権の後任に対し、「ロシアの意図を知ること、ロシアが約束を守ると信じることは極めて難しい」と警告する。別の高官は「ロシアは危険な行動を取る傾向を強めており、ロシアの指導層は注意深く、良く計算し、危険は避けるという従来の想定は当てはまらなくなりつつある」と述べた。

 サイバー空間で新しい冷戦が始まった。トランプはデタントを望んでいるようであるが、まずはこの新しい分野での抑止の明確な規範の確立を注意深く検討すべきである。

出典:David Ignatius,‘In our new Cold War, deterrence should come before detente’(Washington Post, November 15, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/in-our-new-cold-war-deterrence-should-come-before-detente/2016/11/15/051f4a84-ab79-11e6-8b45-f8e493f06fcd_story.html


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