「屈辱の象徴」から「和解の象徴」へ
オバマ大統領が広島を訪問したからといって、安倍首相が真珠湾を訪問することは自然な流れではなかった。しかし、日米の和解は真珠湾でもすでに進んでいた。
13年9月に、真珠湾のアリゾナ記念館に原爆犠牲者の折った折り鶴が展示された。2歳の時に広島で被爆し、原爆症と闘いながら元気になることを祈って折り鶴を折り続けた佐々木貞子さん。そのサダコの折り鶴が屈辱の象徴であるパールハーバーに展示されることなど、本来なら考えられないことだった。
しかし、貞子さんの兄、原爆投下を決断したトルーマン大統領の孫、ハワイの日系人社会、そして米軍人の協力によってこの展示が実現した。この瞬間、パールハーバーは屈辱の象徴ではなく、和解の象徴になった。
8月22日、スーパーマリオに扮した安倍首相がリオ五輪の閉会式に土管から出現していた頃、アリゾナ記念館では昭恵夫人が真珠湾攻撃の犠牲者を悼み、サダコの折り鶴の展示の前で足を止めていた。昭恵夫人は、パールハーバーの持つ意味の変化に気づいたことだろう。
安倍首相の真珠湾訪問が発表された直後の12月8日には、真珠湾で初となる日米合同の慰霊祭が行われた。安倍首相が27日に向かうのは、屈辱や復讐ではなく、和解の象徴としてのパールハーバーである。安倍首相の訪問は、真珠湾攻撃の生存者と犠牲者、そしてその家族の魂に安らぎを与えることだろう。
当日、安倍首相とオバマ大統領にはハリス米太平洋軍司令官が同行する。日本海軍と戦った海軍人の父と、米軍の空襲で神戸の実家を焼かれた日本人の母の間に生まれ、日米同盟の強化に尽力してきたハリス司令官は、日米和解のもう一つの象徴だ。安倍首相とオバマ大統領の4年間を締めくくるためにこれほど最適な同行者は、故ダニエル・イノウエ上院議員以外にはいないだろう。
戦争や植民地支配で生まれた国家間の敵意と憎悪を克服し、真の和解を実現することは容易ではない。政治家同士が和解を演出しても、犠牲者とその家族が寛容の心を示さないかぎり、真の和解が実現することはないだろう。
日米では戦争の犠牲者とその家族、そして軍人とその遺族が和解を進めてきた。安倍首相の真珠湾訪問は、国民同士の和解の動きに支えられ、日米関係のさらなる強化につながるだろう。そして、それは、日本と中韓などアジア諸国とのさらなる和解につなげる上で重要な一歩となる。
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