人の心配のしかたの傾向としてもうひとつ、島崎氏は「自分のしていることに付随して発生するリスクを低く見積もり、あまり心配しないという傾向があります」と話す。
たとえば、喫煙者は喫煙のリスクを過小評価して、心配しない向きがある。逆に、飛行機に滅多に乗らない人はリスクを過大評価して、心配しすぎる向きがある。
「怖いと感じる要素には、それ自体の恐ろしさの強さのほかに、もうひとつ未知性の度合もあるのです。知っていると、具体的にどこがどうなると想像できるので怖さが減る。逆に、得体の知らないものだと怖さが増すわけです」
予防接種を受けるリスク、
受けないリスクを計算してみよう
リスクが「あるかないか」で捉えると、リスクを心配せず見逃してしまうことになりかねない。また、リスクの過小評価は心配しなさすぎを引き起こすし、リスクの過大評価も心配しすぎを引き起こす。
ありたい姿は「実際のリスクに相応に心配する」ことだ。それに近づくためのひとつの方法が「自分で計算すること」だという。
「よく、説明の題材で使うのは予防接種です」
予防接種を受けて副作用が生じ、死亡した人のニュースを聞く。だが、予防接種は病気を防ぐための行為なのだから、予防接種を受けないことで死亡する人もいるはずだ。予防接種を受けることと受けないこと、それぞれのリスクはどのくらいなのか。以下は、島崎氏が『心配学』で「日本脳炎の予防接種」を例に示している計算方法からのものだ。
「予防接種を受けることのリスク計算」
・現在のワクチンが使われるようになった2009年以降、2名が副作用で死亡した。
・この間、約1400万回の接種がなされている。
・ただし、日本脳炎ワクチンの予防接種は1人4回受ける必要がある。
1400万回のうち2名が死亡したので、予防接種1回あたりの死亡リスクは、2/1400万 = 1/700万。ただし、1人4回受けるので、4倍して、4/700万 = 1/175万
「予防接種を受けないことのリスク計算」
・予防接種が始まる直前の1966年の日本脳炎死者は783人。
・当時の日本の人口は9900万人。
・ただし、人は約80年、生きる。
9900万人のうち783人が死亡したので、予防接種を受けないことでの死亡リスクは、783/9900 ≒ 1/13万。ただし、これは1年間のリスクなので、人が80年にわたり生きると考え80倍して、80/13万 = 1/1600
つまり、予防接種を受けることでの死亡リスクは「175万分の1」。受けないことでの死亡リスクは「1600分の1」となる。大まかな計算ながら、リスクに大差があることはわかる。