船舶の修理・修繕業界などに"特需"という神風が吹こうとしている。国際海事機関(IMO)によって、世界の生態系を守る狙いから船舶のバラスト水(海水)の浄化を義務付ける条約が発効したためで、既存船を含めて短期間のうちに浄化装置を取り付けなければならなくなったためで、関係業界の中には大型ドックを新設する動きなども出ている。その動きを探った。
瀬戸内海のほぼ中央に位置する広島県尾道市因島。かつては人口が4万人を超え、日立造船が主力造船所を置くなど「造船の島」として栄えたことはよく知られている。最近はその造船業も衰退し、代わりに「しまなみ海道」(本四連絡橋・尾道ー今治ルート)沿いの観光資源を活かした「観光の島」として再生を図っている。
その因島の北端にほど近い重井地区に立地する三和ドックが6万3000トンクラスの新設大型ドックを完成させ、地元ではちょっとした話題になっている。ドックの大きさは全長220メートル、幅約45メートルで、付随する本社ビルなど関連施設を含めると、投資額は約120億円に達する巨大投資だ。
なぜドック新設なのか?
造船業界は海運市況低迷の直撃を受けた「船余り」(海運業界関係者)から受注が激減し、先行きに赤信号が灯っているが、なにゆえに今、ドックの新設なのだろうか。
これについて、三和ドックの寺西勇社長は「国際海事機関(IMO)によって、外航船舶のバラスト水の規制強化が採択され、バラスト水の処理装置の設置が船舶に義務付けられるため、設置工事など船舶の修繕工事が今後、急増することが予想される。このドックはそのための修繕船用なんです」と、その理由を説明する。
船舶のバラスト水は積荷を降ろした船を空荷の状態で運行する際、船体を安定させるために積み込む海水のことで、荷物を積載した後は再び海中に放出される。問題はこのバラスト水(海水)だ。海水中にはプランクトンなど多くの微生物が生存しており、バラスト水の注排水によって本来の生息地ではない場所に移動させられ、世界の生態系を崩すことになるのだ。