2024年11月22日(金)

今月の旅指南

2010年4月30日

 唐招提寺〔とうしょうだいじ〕といえば、誰もが思い浮かべるのが開祖・鑑真和上〔がんじんわじょう〕の名前だろう。唐の高僧・鑑真は、日本の仏教者に戒律を授けるため、度重なる渡海の失敗と失明という悲運にも屈せず、12年の歳月をかけて渡来。東大寺に戒壇を設けた後、この地に唐招提寺を建立した。

 「うちわまき」は、その唐招提寺の中興の祖、覚盛〔かくじょう〕上人の命日5月19日に行われる法要で、正式には「中興忌梵網会〔ちゅうこうきぼんもうえ〕」という。

「魔除けの宝扇」(写真下)と呼ばれるうちわを求めて、 多くの参拝者が手をのばす(写真提供:奈良市観光協会)


「覚盛上人は、平安遷都で衰退した寺を鎌倉時代に復興し、“鑑真和上の再来”と謳われた高僧です」

「魔除けの宝扇」

 と教えてくれたのは唐招提寺執事の石田太一さん。うちわまきの由来についてこんな逸話があるという。

 「ある夏の日、覚盛上人の体に蚊が止まりました。弟子たちが蚊を叩こうとすると、師はこれを制し、『殺生はいけない。蚊に血を与えるのも菩薩の行である』と仏の道を示したそうです。慈悲深く、清廉な人柄の師を慕う弟子は多く、亡くなられたとき、法華寺〔ほっけじ〕の尼僧が『せめてこれで蚊を追い払ってください』と手作りのうちわを供えました。以来、命日にはうちわが供えられるようになったと伝えられています」

 当日は13時から、うちわが飾られた講堂内で法要が営まれ、同時に、前庭で舞楽・雅楽が奉納される。その後、舎利殿〔しゃりでん〕と呼ばれる鼓楼〔ころう〕から数百本のハート型のうちわがまかれる。うちわには千手観音と烏須沙摩明王〔うすさまみょうおう〕の御真言〔ごしんごん〕が刷られており、これを授かると、魔除け、虫除けなどにご利益があるとされることから、多くの参拝者がうちわを求めて殺到する。そのため、近年は、安全を期して、用意したうちわのうちおよそ1000本は僧坊で手渡ししているとか。


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