粗野で下品で威張り屋で、嘘をつき続ける大金持ちで、怖いもの知らずのボンボンが、自由主義社会、資本主義社会のリーダー、グローバル経済の牽引役であるはずのアメリカ合衆国の大統領になってしまった。ここで米国の2大政党のどちらを支持するかとか、あるいは初の黒人大統領に続いて初の女性大統領を誕生させる機会を逃したとか、そういう議論をするつもりはない。米国の有権者でさえ驚いた選挙結果の背景にあった物事についてはすでにあちこちで十分書かれ、話されている。
だからここでは選挙で勝った新しい大統領は就任時、すでに国民の過半数に嫌われていて、就任式の参加者を遥かに超える多くの人々が全米各地で、そして世界中の多くの都市で抗議デモを繰り広げているという異常事態が起こっているということを示すだけにしておこう。
大金持ちのカントリー・クラブの様相
ただし、大統領就任演説はこの大国の大統領の就任演説ではなく、相変わらず下品な口調の選挙演説だった。そしてワシントンから米国民に主権を取り戻し、米国に雇用を取り戻すと言い、米国第一主義を唱えるトランプ政権の閣僚の顔ぶれは、そもそも米国の雇用を流出させた元凶ともいう巨大企業の経営者、そして米軍の退役将校が顔を並べる、大金持ちのカントリー・クラブの様相だ。アメリカ人は国のリーダーを選ぶ選挙で、ボスを選んでしまったのだ。
私が今後そのトランプ氏をあえて「嘘つき」大統領と呼ぶことにしたのは、彼がそれはもう頻繁に嘘をつき、ホラを吹き、事実と異なることや事実と異なる数字を平気で口にして、さらに自分に異論を唱える人や報道機関に対しては逆に相手を「嘘つき」「偽物」と罵るからだけでなく、その「事実と異なる」ことを指摘されると絶対に間違いを認めないばかりか、間違いを指摘するか、異論を唱えた相手を徹底的に罵倒するかの対応しかしないからであり、さらに最も大きい理由は、彼が「嘘を並べ続ける」ことで相手も報道機関も一つ一つの嘘に対応しきれなくなっていくことを狙っているのが明らかだからである。
それは新大統領だけでなく、彼のシニア・アドバイザーを務める女性も、新しいホワイトハウス報道官も同じだ。彼の一味がこれから毎日嘘をつき続けて、それを「メディアとの戦争」だというのだから、いやはや大変なことになったものである。
とはいえ米国民に選ばれた(ロシアに選ばれたのかもしれないが)新大統領は早速仕事を始めた。上院、下院ともに共和党過半数となった新しい米国議会は同党が指名した大統領を得て政権運営も議会運営もさぞかし順風満帆と言いたいところだが、その新大統領が就任直後に着手したのは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)からの脱退と、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉だというのだから、さて議会共和党はどうこれに対処していくのか、目が離せないところである。