TPPの方はまだ始まっていないものだが、発効してから20年以上も経つNAFTAを3カ国が再交渉するとなると大変なことになるように見えるが、そもそも自由貿易協定とはいえ3カ国の間で全てのモノとサービスが非関税になっているわけではないのだから、盛んに報道されているメキシコから米国への自動車、あるいは米国からメキシコへの自動車部品などだけが問題になるわけではない。いや、具体的に何をどう交渉するかもこれからの話なのだ。
標的にされたメキシコと自動車産業
「NAFTAを再交渉するぞ」というトランプ「嘘つき」大統領の宣言は、つまり「メキシコへ奪われた自動車生産の雇用を米国内に取り戻すぞ」と言いたいのであって、これは自動車産業がいつの時代もターゲットにされやすいということもさることながら、トランプ氏を大統領選挙で勝利に導いた中西部のラスト・ベルト州では鉱工業の失業者、失業経験者の支持を得たことが勝因と言われ、この地域から「雇用を奪った」と悪者に名指しするのに最も簡単なのがメキシコで発展が著しい自動車産業だったからだ。
トランプ氏は選挙期間中からフォードのメキシコ新工場建設をピンポイントで批判し続け、当選後、まだ大統領にならないうちから空調機器大手キャリア・インディアナ州工場のメキシコ移転を批判した。やがてキャリアはインディアナ州での雇用維持に同意し、年明けになってフォードもメキシコ新工場建設計画の中止を発表した。
「その代わり」にミシガン州の工場へ投資して新モデルを生産するというのである。次なる標的はゼネラル・モータース(GM)で、そしてトヨタだった。GMは小型乗用車をメキシコで生産していると非難され、トヨタは小型乗用車をメキシコへ生産移管しようとしていると非難し、米国でつくらないのなら「多額の国境税」を払えと脅したのだ。
それぞれの自動車メーカーは、メキシコだけでなく米国にも莫大な投資を行い、多くの雇用を創出するという声明を発表した。デトロイト3の中で唯一脅されていなかったフィアット・クライスラーは、さっさと米国に「これだけ投資する」と発表してしまい、トランプ「嘘つき」大統領はデトロイト3に対して、「私の言うことを聞いて米国に投資してくれてありがとう」と、いつものトゥイッターで呟いた。
こんな報道だけを見聞きしていると、まるで米国で活躍する有名な企業が皆、トランプ「嘘つき」大統領の言いなりに事業計画、投資計画を変更しているように感じてしまうだろう。
だからこそトランプは「嘘つき」大統領なのである。
キャリア社がインディアナ州工場に雇用を残すことに同意した背景には、700万ドルの税控除、親会社で防衛産業大手の企業との取引があったとされるし、何よりも依然として数百人の雇用はメキシコへ移管されるのだ。「俺が脅したから言うことを聞いた」というだけのことではない。