「何でまたこんな寒い時期にオートショーをやるのだろう」と思う人も多いことだろう。だが、デトロイト・オートショーは毎年一番先に開催するということに相変わらずこだわっている。地元の自動車販売店協会が主催するに過ぎないオートショーなのだがその規模は北米のショーの中でも大きく、呼び名も「北米国際自動車ショー」というのだから力が入っている。米国でクルマを販売している世界中の大手メーカーが新車とコンセプトの展示を競い合って集まる報道陣に明るい未来を訴えるのだ。
オートショーはその時代の経済の状況によって発表、展示されるクルマの種類が変わる。ガソリン価格が4ドルを超えた年には、日系メーカーだけでなくデトロイト3までも低燃費のエコカーばかりが並んだものだし、景気が良くなれば、各社は競ってピックアップトラックや大型SUVを展示する。従って出展するメーカーがお互いに相談しなくても、おのずと並ぶクルマにその年の分かりやすいテーマが現れることになる。つまり「グリーン」がテーマだったり、「パワー」がテーマだったりするわけだ。
今年のデトロイト・オートショーに
統一性がない理由とは?
ところが、今年のデトロイト・オートショーは少々雰囲気が異なっている。各社に統一されたテーマがほとんど見当たらないのだ。
販売世界一のトヨタはトヨタ・ブランドの発表を行わずレクサスの「スーパーカー」2モデルを豊田章男社長自らが、最近ますます上手になった語り口で紹介した。フォードは前週にラスベガスで開催されたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)の続きのようにマーク・フィールズ社長がまるでアップルか、グーグルの仲間になったようなプレゼンを行った。その一方で、伝統の車名リンカーン・コンチネンタルの復活を語ったりしている。
ゼネラル・モータース(GM)は、シボレーの純粋電気自動車ボルト(プラグイン・ハイブリッド車のボルトは「Volt」で、EVのほうは「Bolt」というのだから日本人が発音すると区別がつかない)の改良モデルを発表したかと思うと、中国での販売のほうが主になっているビュイック・ブランドで2ドア・クーペのコンセプトを見せている。
こんなに統一性のないオートショーは珍しいと思いながら会場を歩き続けたのだが、その次の2日間に参加したイベントが私にあることを気づかせてくれた。
デトロイトのダウンタウンはデトロイト川を南に臨む街である。ミシガン州は五大湖のうち4つの湖に囲まれているが、その中のヒューロン湖から途中のセントクレア湖を経由して(この湖は五大湖の中には数えられない)エリー湖に向かう流れがデトロイト川である。
オートショー会場となるデトロイト川沿いのコボ・センターから東へ800メートルほどのやはりデトロイト川に面したルネサンス・センターは、荒廃のどん底に陥ったデトロイト市にヘンリー・フォード2世が再生のシンボルとして建てた高層ビル群で、今ではGMが所有してその本社を置いている。地元の人々が「Ren Cen(レンセン)」と略して呼ぶこのビルにはマリオットホテルや日本国総領事館もある。
オートショーのプレス発表が終わった後すぐにこのレンセンで自動車業界紙オートモーティブ・ニュースの年次コンファレンス、ワールド・コングレスが開催された。こちらは自動車メーカーの代表者だけでなく大手部品サプライヤー、自動車販売店、情報産業から経済アナリスト、さらに米国運輸省国家道路交通安全局(NHTSA)の局長までが次々に登壇して2日間に渡り自動車産業の展望について語っていた。