お隣さんが注文した「アワビのしゃぶしゃぶ」。アワビを豪快に1個分、切って若竹煮の鍋に入れているところがカウンター越しに見えた。同じものをと注文するしかない。
案の定の至福。ついつい酒が進む。
やがて、ハモの季節か。そちらもいいし、冬場のフグの白子のあんかけ蒸しも、グジ(アマダイ)の昆布締めも良かった。いつもある生ウニを見事な和牛の生肉で巻いた一品も言うまでもない。次は何にしよう。鯛の白子? 大きいなあ。紅葉おろしとポン酢で食べるのか。それも。
というのが、「かねます」でのお話。料理は真っ当なおだしと食材の料亭のそれ。それを、立ち飲みで、という店である。
シェフやワイナリーのオーナーのような友人が多い。その美食家たちが東京に来ると、何か面白いもの、美味しいものを食べさせろと言う。
そういう人々に、高級料亭やレストランでは当たり前過ぎる。リクエストに応えるべく考え、試したルートがいくつもある。その中で、特に好評な路線が、この勝鬨〔かちどき〕橋にある立ち飲み「かねます」から始まるものだという次第。
できれば、開店の4時に始めたい。遅くても5時頃。遅いと、混むし、食べたいものがなくなる。
初めてなら、生湯葉か煮込みでも注文して、名物のハイボールなど一杯やりながら、おやじさんの手元、あるいはほかの客が食べているものを眺めるがいい。きっと、幸せに出会える。見ていると、全部食べたくなるのが難だが。
ここでお腹いっぱいになるまで楽しむもいい。ただ、今日は「変化」を楽しんでもらいたい。ほどほどに満ちたら、すこし、夕方の風に吹かれよう。隣の月島まで散歩しよう。
月島で、居酒屋という言葉の、昔ながらのイメージそのままの「岸田屋」に入るという手もあるが、たいていは混んでいる。入れない。
気分を変えて、地下鉄で森下へ行こう。
森下には「山利喜〔やまりき〕」がある。負けずに混んでいるが、待ちやすい。支店もそばにある。
岸田屋ともども、煮込みのうまさで東京を代表する店である。岸田屋の煮込みが日本酒か焼酎を呼ぶ、純和風であるのに対して、山利喜のそれはワインでも合う。