2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2017年2月18日

 2002年、財界、石油テクノクラート、反共産主義、自由主義者らの陣営がチャべス追い落としのクーデターをしかけた。アメリカの後ろ盾があったともいわれている。

 「メディア弾圧の兆候は、99年のVEN PRESSの廃止だった。民主政権下の国営メディアだけど、そのモットーは国民に情報を伝え、娯楽を与え、教養を育むという本来のメディアの役割を心得ていた。チャべスはその代わりにAVN(ベネズエラ・ニュースエージェンシー)を作った。その思想は政治的イデオロギーのプロパガンダで目的は思想統制と洗脳だよ。かつての寛大さはなくなったんだ。次に、政府は2002年に『真実を言え』とのコミュニケを出して、民放に圧力をかけた。2004年には『テレビ・ラジオ法』を発効して、無料の政府の宣伝枠を義務付けたんだ。もちろん選挙の宣伝も与党は無料だ」

 ベネズエラではスポーツ中継やドラマのまさにいいところで、突然無味乾燥な政府のプロパガンダが入る。

テレビはこうして殺された

 2008年の夏、私が駐在し始めたころ、新聞は全国紙も地方紙も大半が反チャべスの論陣を堂々と張っていた。一方、テレビは「グロ―ボ・ビション」を除いて政府の軍門に下っていた。すなわち、チャべスのコアな信者は新聞など読まないので、まずはテレビ局から手をつけたのである。

 「ベネズエラのテレビ、ラジオは、以前は巨大だった。もちろん民放だよ。ベネズエラのテレノベラ(テレビドラマ)はスペイン語圏に輸出する一大産業だった。その核となっていたのが、RCTV(ラジオ・カラカス・テレビ)だよ。ベネズエラ最古で最大のテレビ局で、ベネズエラ全土で49%もの放送網をもっていた。でも政府には事実を報道していたので目ざわりだった。2007年5月27日に、53年の歴史を閉じた。政府は供給する電波の契約を更新しなかったんだ」(サンチャゴ)

 RCTVは元々は自由民主主義に立脚するテレビ局で、クーデターのときに情報を操作したともいわれている。

 「私はその少し前から二度とマスコミでレポートをできなくなっていたよ。RCTVにも出られなかった。チャべス派に『真実の報道をしろ、さもないと命はない』と誘拐されて拳銃を突きつけられたんだ」(サンチャゴ)

 当時のRCTVの記者たちはどうなったんですか?

 「記者どころか、掃除のおばさんまで解雇されたよ。機材のすべては電波を受け継ぐ国営のTVes(ベネズエラ社会テレビ)に引き渡されたんだ。記者もディレクターもちりぢりばらばらになって、海外に出るか、タクシーの運転手やホテルのボーイになるとか、別の仕事に就くしかない。さすがに国民も怒ったんだろう。チャべスはそれを接収したあとの憲法改正の国民投票で敗北している。選挙唯一の敗北だ。その後、TVes はお決まりのプロパガンダを始めたわけだ」(アルベルト)

 「電波権を政府が握っているからね。だから、ラジオ、テレビは羊のようにおとなしくなる。いまだってそれがあるよ。電波を更新しなければ、どうなるかというと、国家の別会社がそれを買うのさ。国家の金でね」(サンチャゴ)

 グロ―ボ・ビションはどうですか。『こんにちは 大統領』に対抗して『こんにちは 市民』を放送してましたけど。

 グロ―ボ・ビションは、国民の実際の生活状況、崩壊するインフラ、激増する犯罪、そしてチャべス政権の生々しい腐敗スキャンダルを次々と流していた。アメリカがらみの事件もあり、FBIやCIAから情報をもらっていたと推測される。

 「グロ―ボ・ビションは、ケーブルテレビだからRCTVほど放映網をもっていなかった。国の35%をカバーするだけだ。影響はまだ少ない。でも、ものすごい反政府だった。経営権をもっていたのは、資本家3人。このテレビ局だけはラテンアメリカ全土にレポーターがいた。朝から晩までニュースを報道していたな」

 結局、真実を言えと圧力をかけるだけではなく、どこの政府でも使う手だが、社主は脱税の疑いが帰せられてアメリカに逃げ、グロ―ボ・ビションは政府に接収され、人気レポーターたちは去り、今は北朝鮮の朝鮮中央テレビのようになってしまった。

 同じように地方のテレビ局は次々と接収されていき、機材も奪われた。中にはインターネットテレビとして細々と活動をしている局もある。無傷なのはスポーツ専門チャンネルや娯楽に徹しているチャンネルである。


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