2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月9日

 イランが1月29日に行った中距離弾道ミサイルの発射実験にトランプ政権は制裁を発動しました。これに関して、ワシントン・ポスト紙の2月3日付社説は、トランプ政権にとって重要なことは周辺地域の安定を阻害するイランの行動を抑止するための戦略を持つことだ、と述べています。要旨、次の通り。

(iStock)
 

 トランプ政権の根性に探りを入れた最初の国の一つはイランである。核弾頭を含む1000ポンドの弾頭を搭載可能な中距離弾道ミサイルを発射したのである。2015年7月の核合意以降、イランは何度もその種のテストを行ってきた。その遺産が壊れることを避けたいばっかりに、オバマ政権は概ね象徴的な制裁を課す一方で、これらのミサイル発射を軽視してきた。

 今回のミサイル発射に対するトランプ政権の言葉の上での反応はもっと激しいものであった。フリン大統領補佐官は「イランには警告済みである」と劇的に述べた。しかし、2月3日に最初の行動が明らかになった時、それはオバマ政権の対応に似たもの、即ち、ミサイルの資材調達に関わった個人と団体に狙いを絞った制裁であった。核合意を破棄し、イランの艦艇をペルシャ湾から叩き出すと選挙戦でいっていた大統領にしては、それは慎重で控え目なステップであり、好ましいことであった。

 トランプ政権がミサイルのテストおよび中東におけるイランの侵略を押し返そうとすることは正しい。しかし、戦略的にやるべきである。核合意を無効にすることは、核兵器に用いられるウランの濃縮という、目下封じ込められている脅威の扉を開くことになる。必要なことはその他の差し迫った脅威に対応する措置である。イラクとシリアに展開する数千のシーア派の民兵、イエメンの反乱軍ホーシーに対するイランの支援、ペルシャ湾の米国艦船に対する脅威、サイバー攻撃などがそれである。

 ミサイル発射が特に問題と思われるのは、核合意を承認した安保理決議にオバマ政権が認めた抜け穴があり、これをイランが悪用しているからである。即ち、イランは弾道ミサイルの発射をしないよう要請されているに過ぎず、ロシアがイランの側に立っている状況では安保理による強制措置は不可能である。

 今回の対応が制裁にとどまったとしても、受けて立つ用意がないエスカレーションを挑発するような措置に走らなかったことは支持し得る。他方で、この対応には雑なところがある。中東全域に展開する米兵や米軍艦艇はイランの報復に脆弱であり得るのに中央軍司令部は前もって警告を受けなかった。同盟国が協議を受けた様子もない。

 イランが過去十年に中東で獲得した地歩を巻き返すには何年もかかる。これに成功するには、トランプ政権は優先事項をはっきりさせねばならない。例えば、トランプ政権がこの地域における潜在的な同盟国と見做すロシアはイランの戦略的なパートナーとなっている。シリアでアサド政権を存続させることはイランの支配を固定化することになる。このようなチャレンジに対応する戦略を持たない限り、イランの聖職者を感心させることにはならないであろう。

出典:‘The real test of America’s Iran policy’(Washington Post, February 3, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/the-real-test-of-americas-iran-policy/2017/02/03/1c2fad84-ea3c-11e6-80c2-30e57e57e05d_story.html


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