2024年11月21日(木)

特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年3月28日

*前編はこちら

憲法改正、ドイツのやり方は参考になる?

出口:個別的自衛権は「外国の侵略から日本を守る」ということですっきり説明がつきますが、集団的自衛権はどう考えたらいいんでしょう?

木村:まず、これまで日本政府は、日本が集団的自衛権を行使することはできないと考えてきました。憲法13条はあくまで「国民を守れ」ということで、「外国政府を守れ」とは書かれていません。集団的自衛権は外国を守る権利なので、9条の例外を認めることは、今の憲法ではできないというわけです。

 集団的自衛権については、9条以外にも深刻な問題があります。日本国憲法には、外国に自衛隊を派遣するときの基準や手続きが書かれていないのです。たいていどの国でも、自衛隊に相当する軍隊や実力組織を海外に派遣するとき、責任者や手続きの方法、どういう場合に行くか、という基準が憲法でコントロールされています。

木村草太さん

出口:つまり、他の国の憲法は貼紙になっているんですね?

木村:そうです。だって海外に軍隊を送るのは、すごく大事なことじゃないですか。

 国によって「議会の承認が必要」とか「首相や大統領が責任を負う義務がある」とか、きちんと書いてあります。しかし日本国憲法は海外への派兵をしない前提で作られているので、手続きが全く書かれていないんです。今のままでは「議会の承認なんかいらないよね。現場判断でやっちゃっていいよね」と、運用されかねません。大変危険なのでやめておこう、となるわけです。

 2015年の安保法制では集団的自衛権を一部容認したとされますが、条文上は、あくまで13条で説明がつく範囲にしようとしています。国民の生命の自由の権利が根底から覆されるときにそれを守る範囲でだけ使ってもいい、という条文になりました。もちろん、国民の生命を守るためであれば、集団的自衛権である必要はないという批判も非常に強くあります。

出口:なるほど。今、認められている集団的自衛権は、13条に引っかかるほんのわずかな部分だと理解していいんですね?

木村:そうです。ただ、それがどういう範囲なのか、政府の説明がはっきりしていません。ホルムズ海峡云々という話がありましたが、13条の事例を守るためのケースかと言われると、「そうかな?」と思う人が多いでしょう。条文自体の意味がよくわからないんです。9条違反だと議論する前に、「そもそも意味がわからないから憲法違反と言わざるを得ない」というのが私の立場で、国会でも話をしてきました。

出口:もし集団的自衛権を行使するのであれば、憲法を変えなければならないとお考えですか?

木村:はい。やる場合は、きちんとしなければ。単に行使できると書くだけでなく、誰の責任で、どんな手続きでやるのかを書き込まなければいけないと考えます。たとえばドイツでは、「海外派遣をするときは必ず議会が関与する」「集団的自衛権を行使する場合は、守りに行く国とドイツとの間に国際条約の基礎がないといけない」という基準が作られています。

出口:憲法改正を行う場合、ドイツのやり方が参考になるとお考えですか?

木村:そこは非常に難しい部分もあります。憲法ができた時期が同じで、同じ問題意識で作られているので、日本国憲法とボン基本法は構造がよく似ている。ただ、ドイツは憲法に書いてあることが非常に多いんですよ。

出口:なるほど。

木村:憲法というのは、普通の法律よりも改正が難しいのが普通です。どれくらい難しいかは国によって違いますが、ドイツの場合は上下両院の3分の2で改正ができる。日本の場合はそれに加えて国民投票があるので、ドイツに比べてかなり改正が難しいんです。

 改正が難しい国の憲法は、憲法に書いてある事柄が少なくなる傾向です。ドイツは日本と比べると改正が簡単なので、日本では公職選挙法や地方自治法に書かれていることも、憲法に書き込まれているんですよ。

出口:憲法の内容と、改正手続きはリンクしているんですね。

木村:そうです。ですから、ドイツで憲法改正されていることが、直に日本に示唆を与えるかというと、そうでないことも多いんです。

出口:日本とドイツは敗戦国で戦争犯罪を裁かれたので、海外へ派兵する場合の書き方などは参考になると思いますが、どうでしょう?

木村:おっしゃる通り、非常に参考になりますね。ドイツの場合、再軍備のために憲法改正をしましたが、非常に厳しい議会チェックを入れました。ここは日本と非常によく似ていると思います。ただ、日本とドイツの安全保障上の文脈はかなり違います。ドイツはNATO(北大西洋条約機構)の加盟国です。

出口:日本の場合は日米安保ですね。

木村:はい、二国間条約なので、集団的自衛権の必要性も違います。ドイツの場合はNATO諸国のどこかの国がやられたら、守らなければいけないという枠組の中に入っています。

出口:シンプルといえば、シンプルですね。

木村:日本の場合は、幸か不幸かそういう枠組の中に入っていませんし、同盟国とされるアメリカも遠く離れたところにあって、自衛隊基地がアメリカにあるわけでもない。たとえばアメリカが侵略を受けたとき、日本がすぐ助けられるかというと、そういう状況ではないんです。

出口:非常に微妙なところがありますよね。


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