昨年8月に生まれた乳児を抱える神田亜美さん(仮名、29歳)は、不安な日々を送る。4月には職場に復帰したいのに、品川区から認可保育所(以下、認可)の「合格」通知が来ない。保育所に入れず、育児休暇を1年半延長したあげく退職した先輩の姿を自分に重ねてしまう。
保育所を探して、昨年暮れに引っ越しまで実行した。4月に認可に入るためには、前年12月時点で住民票がないといけないことを知ったからだ。3時間おきの授乳で睡眠もままならない亜美さんに代わり、夫が仕事の合間を縫って区ごとの保育事情を調べあげた。家賃は4万円上がり、夫の通勤時間は40分も増えた。
「東京暮らしは片働きでは苦しい。2人目も考えているので、なおさら稼がないと。育児環境が厳しいと、負担は男性にものしかかります」
昨年2月、練馬区で新婚生活を始めたと同時に妊娠が分かった。「長く休むと仕事についていけない」と、産後すぐ保育所探しを始めて驚いた。近所にひとつあった保育所は、隣の板橋区の認可だから入れないという。
「保育難民」生活が始まった。
情報・制度に翻弄
勝者なき総力戦
保育所待機児童数は、13年4月時点で2万3000人弱と、依然都市部を中心に深刻な状況が続く(図)。政府の定義では、自治体が独自基準で運営する保育所(都の認証保育所など)の児童や、入れる保育所があるのに待機している場合は待機児童に含めない。埼玉県の主婦は、斡旋された保育所が遠いからと断ったら、待機児童から外された。「数を減らすために、通えない所を紹介しているのでは」。潜在待機児童数は85万人超とする厚生労働省の推計もある。