「個人個人が幸せになる。
それが日本国憲法のもっとも大事な理念です」
出口:今日のお話は、ものすごく勉強になりました。
木村:一般に、憲法はとっつきにくいと言われますが、なくなったら困るものの一つとして考えてもらえたらいいですね。
私は憲法のことを水道管に例えています。蛇口から水が出るのは当たり前すぎて意識もしませんが、なくなって初めてありがたさがわかります。生命保険もそうですよね。日本の保険システムは非常にすぐれていて、まずは国民皆保険。それに加えて各保険会社が自由競争でいい商品を提供しています。保険システムが発達していない国では、こんなに安くていい保険には入れません。
出口:僕はいつもこう言っています。すごくカッコよくて優しい人がいました。結婚しようという話になったとき、その人が打ち明けた。「実はうちのお父さんとお母さん、健康保険にも国民年金にも入っていないんだ」と。そう言われたらびびりませんか?
木村:ハハハ。まさに皆保険があるから、そういう心配をせずにいられるわけですね。憲法に置き換えると「うちの国、理由もなく逮捕します」とか「拷問もやり放題なので、覚悟して入国してください」というようなもの。そんな国には、普通は入国しません。怖いですもん。だから、自分がその国の国民になるとか、入国するという立場で憲法を読むのがいいかもしれません。
出口:僕は、日本国憲法って割と短いし、日本語としてもそんなに難しくないので、暇なときはみんなで読んでみましょう、とお勧めしたいですね。
木村:そうですね。特に憲法第三章には権利と義務の規定があります。私たちの生活を支えてくれているものなので、そこを読んでみるのがいいと思います。暇なときにね(笑)。
出口:国のカタチですもんね。
木村:日本国憲法のもっとも大事な理念は、個人個人がそれぞれに幸せになることです。個人の尊重、尊厳といいますが、個人は全体の道具ではありません。一人ひとりが世界を持っていて、個人を尊重する。そこに尽きます。
出口:まったく同感です。そういう意味ではレベルの高い憲法ですよね。
木村:一人ひとりが幸福を追求したり、知識を追求したり、自分の宗教観を追求したりするのだ、とも書かれています。国民は「世界を知ろう」とする気持ちが大事だと思いますね。
出口:好奇心とは、世界を開くこと。外に向かっていくことですよね。自分の世界を閉じてしまっては幸せになれません。
木村:閉じてしまうと、選挙のときに「あの候補は悪口を言われているからきっとそうだ」と決めつけたり、自分にとって必要な本と出合えなかったりする。出口さんは、非常に探究心と好奇心を持っておられるので、今日はとても刺激を受けました。だからこそ、新しいものを知ったとき「なるほど!」と言えるんだなあと思います。
出口:新しいものごとを知ると嬉しいですからね。今日はいろいろ教えていただいて、こんな考え方もあるんだ、とワクワクしました。
木村:そのワクワクが大事だから、個人は尊重されなくてはならない。それが日本国憲法だと思います。
1980年神奈川県生まれ。専攻は憲法学。2003年東京大学法学部卒。同大学大学院法学政治学研究科助手を経て、現在、首都大学東京大学院社会科学研究科法学政治学専攻・都市教養学部法学系教授。著書は『憲法の急所──権利論を組み立てる 第2版』(羽鳥書店)
1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長。日本生命保険相互会社に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2016年6月より現職。
著書は『世界一子どもを育てやすい国にしよう 』出口治明・駒崎弘樹 (著)(ウェッジ)、『「働き方」の教科書: 人生と仕事とお金の基本』(新潮文庫)
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