人工知能の経済の未来への対応
テクノロジー主導の経済が生む富の分配の不平等が、社会全体に悪影響を及ぼしはじめている。アメリカのトランプ政権の誕生には、その不平等に対する行き場のない不満の表れという一面もあるはずだ。すでに「懸命に働けば、誰でもが金持ちになれる」というアメリカンドリームは消え、いまにも切れそうな蜘蛛糸にしがみついた中間層の人々が、後から登ってきた移民や外国人を蹴落とそうとしているが、それでは問題の解決にはならない。
移民が少ない日本では、サービス業を中心として人手不足が深刻な問題になっているため、自動化による雇用の破壊という問題はあまり論じられていない。しかし日本でも経済的な格差は拡大している。資本は効率を追求するので、人工知能による自動化は高賃金の雇用から破壊する。そこから生じる富は資本に還流し、労働は残された低賃金の雇用に流れざるを得なくなり、格差はさらに拡大すると考えられる。
基本的な収入を確保できる社会的なセーフティーネットやベーシックインカム制度導入などについても、アベノミクスに幻惑された日本では真剣に議論されていない。先日、大手シンクタンクの人工知能をテーマにしたメディアフォーラムで、「人工知能が効率化と労働代替にのみ矮小化されている」という捉え方をしていたことに唖然とした。人工知能という次のGPTによって加速するテクノロジー主導の経済の未来を多角的に分析し、そこで生じる可能性のある問題に対応する政策として、税制や社会保障制度そして特に、教育システムについて真剣に議論する必要があるだろう。
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