本来はこうした点を入れたシリア政策を策定していなければ、武力行使には踏み切ることはできないはずだ。戦略のないまま、軍事的に攻撃することはその後の展開に不確定要素が多すぎてリスクが大きいからだ。
こうした戦略の欠如に加え、両派の権力闘争が激化しているため、シリア政策を策定することがさらに困難な状況になっていると言えるだろう。トランプ氏が何らかの発言をすることはどちらかの意見に与することになり、同氏としても簡単には決められない。
IS壊滅作戦にも影響
アサド政権側にも大きな疑問がある。アサド政権がなぜ、米国の懲罰攻撃を招く恐れがある化学兵器を使ったのか、ということだ。ロシアやイランの支援が奏功して反体制派に対して圧倒的な優位に立っていた現状を考えれば、化学兵器をあえて使う必要はなかったはずだ。
これに対してはさまざまな見方がある。軍の一部が独走したという説や、過去3回に渡って化学兵器で攻撃をしたが、国際社会から大きな関心は呼ばず、今回も見過ごされると慢心したのではないかという見方もある。
アナリストの1人は「計算された使用」だったと指摘する。その背景には政権軍の人員不足がある。政権軍は今や1万8000人ほどしかいない上、ロシアから結果を出すよう強い圧力を受け続けていたため、大きな打撃を与えられる化学兵器に「つい頼ったのではないか」という分析だ。
ロシアが化学兵器の使用を前もって承知していたという米当局者の発言も報じられたが、トランプ政権はこれを否定した。ロシアをこれ以上怒らせてはIS壊滅作戦に支障が出かねないと危惧したためだったろう。
というのも、ロシアは米国のミサイル攻撃後、シリアにおける偶発的な衝突を回避するための米ロのホットラインを一方的に遮断した。このため、ロシアの防空網に引っかかることを恐れた米国のIS攻撃は激減、IS壊滅作戦が遅れる懸念が高まっている。
ティラーソン国務長官は12日、ロシアを訪問し、ロシアのラブロフ外相にアサド政権支援を弱めるよう要求するといわれているが、ミサイル攻撃を「国際法違反の侵略」と非難するロシアがこれを受け容れる見通しは全くない。米ロ関係は改善どころか、新たに悪化の道をたどるのは決定的だ。
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