2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2017年3月17日

 トルコのエルドアン大統領によるオランダ、ドイツなどへの非難が激化し、欧州連合(EU)との対決が際立ってきた。4月の実権型大統領の賛否を問う国民投票に勝利するため、欧州を”抵抗勢力”に仕立て、国民の愛国心を煽るという大統領ならではの戦略だ。しかし長年培ってきた欧州との関係を賭けた同氏の作戦が奏功するかどうかは予断を許さない。

捨て身の作戦

Chris McGrath/Getty Images

 

 エルドアン大統領の欧州非難の発端になっているのは、欧州各国がトルコ系住民のエルドアン政権支持集会をやめさせたり、集会に出席しようとした閣僚の入国を阻止したことだ。何らかの形で集会開催に難色を示した国はスウェーデン、オランダ、ドイツ、オーストリア、スイス、フランスなどに広がっている。

 とりわけオランダ政府は11日、トルコのチャブシオール外相の乗った航空機のオランダ着陸を拒否して入国させなかったのをはじめ、翌日にはオランダに滞在していたトルコの家族・社会相を治安警察が空港まで送り、事実上強制的に国外退去させた。激怒したエルドアン氏はオランダを「ナチスの残党」などと罵倒し「オランダは高い代償を払うことになるだろう」と強く非難した。

 このエルドアン氏のナチス非難に腹を据えかねたのがドイツのメルケル首相だ。首相は「オランダがナチスに苦しめられたことを考えれば容認できない」と大統領を諫めた。しかしエルドアン氏は今度はメルケル首相に非難の矛先を向け、ドイツがテロ関係者の引き渡しを拒否しているとして「お前はテロリストを支援している」などと罵った。

 エルドアン氏の常識を越えたような欧州非難には切羽詰まった理由がある。同氏は実権型の大統領制を目指し、4月16日に「大統領権限強化」の賛否を問う国民投票を設定した。国民投票で過半数を獲得できれば、大統領は文字通り強大な権力を掌握し、独裁体制を盤石にすることが可能になるわけだ。

 しかし世論調査などでの国民投票の予想はほぼ賛否が拮抗、若干反対派が上回っているとの情報もあり、このところのエルドアン氏の危機感は深まる一方。そうした中で、300万ともいわれる欧州のトルコ系住民の在外票の重要性が増し、エルドアン氏はこの在外票を取り込むため欧州各地での政権支持の集会に閣僚を派遣して支持固めを図っていた。

 ところがエルドアン氏の独裁体制と反体制派の弾圧などを懸念する欧州各国は同氏がさらに独裁傾向を強めることを恐れる一方で、トルコの内部対立が欧州に持ち込まれることを嫌い、集会への閣僚参加などに難色を示し、これが対立にエスカレートした。

 しかしエルドアン氏はしたたかだ。こうした欧州の動きを激しく非難することで、国民の愛国心を煽って同氏の下に国民を結集させ、国民投票での勝利に結び付けようとする戦略に出た。欧州をいわばトルコ人の権利を侵害する“抵抗勢力”に仕立て上げるという、長年の欧州への接近政策を賭した捨て身の作戦といえる。


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