2024年4月27日(土)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年6月24日

編集部 と、いうことは、日本人には言葉以前に共通の文脈が豊かにあって、その共鳴板に乗るようできてるCMは、よそへ移すと前提それ自体違ってくるから分からない、と、そういうことですか。 

中島 もともとお互いを知っているというところにおいては、暗黙の了解がいっぱいある。それに基づいてCMが作られているので、俳句と同じですよね。言わずもがなのことは言わないという。 

浜野 ともかく中島さんの場合、クライアントに信頼してもらい、ご指名が来て、タレントさんにも信用があるし、スタッフも掌握しているんだったら、どうしてフリーにならなかったんですか。もし独立していたら、中島さん、今大金持ちだよね。

中島 まあ、結構お金持ちだったでしょうね(笑)。 

浜野 決断はしようとしたことあるの? 

中島 うーん、1度、入社して5年目ぐらいですかね。ある程度一本立ちし始めていたんですけれども、同時にはっきり壁を意識しましてね。その頃勧めてくれる人があって、俺もどうせこれ以上伸びないなら今から独立しといた方がいいんじゃないか、なんて。 

浜野 限界感じたから独立しよう、と? 普通は逆なような気がするけど。つまり一人立ちしてやるのはリスクが大きいから会社に雇われていよう、ってなるのが一般的なんじゃないですか。 

中島 そこはいわく言いがたいんだけど、とにかく巨匠・達人と自分の間に埋められない差があるってわかったら、あとはもう、この俺の今の実力でやってくしかないやって、いっそ諦めがつく。そっから独立志向が出たんですよ。 

浜野 そんときの、巨匠、達人とは? 

巨匠、達人みて限界知る

中島 ともかく凄かった、先輩たちの作るものが。当時で言うと、まず巨匠格で高杉治朗さん。さっきも話に出たサントリーウイスキーの宣伝をアルチュール・ランボーのイメージでやるかと思えば、おやつの「カール」までやってしまう。 

 それから、山下達郎の定番ソングと一緒に流れたJR東海の「クリスマスエクスプレス」――WEDGE Infinityの読者には覚えている人多いんじゃないかな、あれを作った早川和良さん、ね。

 あと、手がけてこられた作品見ると、いまさらながらグラフィックの美しさで際立ってる草間和夫さんとか。

 この人たち、圧倒的にビッグでした。自分の等身大がどれほどのもんか、そろそろ見えたなって頃に、川崎徹さんから言われた。「中島おまえ、そろそろフリーになれるよ」って。

 あ、川崎さんって、キンチョールの「トンデレラ、シンデレラ」、「ハエハエカカカ キンチョール」とか、ヒットCMを無数に生み出された才能の塊みたいな方ですけど、僕より10ちょっと上の大先輩からそんなふうに言われて、当時は確かにみんなフリーになってた感じがあったし、なったらBMWかメルセデスでぶいぶい、でしょ。

 そんな人たちが、不動産を転がしていくら儲かったのどうのって、CMと関係ない話で盛り上がっているのを横にいて聞いてたって時期ですよ。

 自分もしょせん「スーパーディレクター」になれないんだったら、この際稼いでおくか、なんてね。


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