2024年12月23日(月)

シリーズ「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」

2017年5月11日

 しかし、SK Hynixの経営陣としては、設計、プロセス開発、量産の過程を一本化し、効率よく3次元NANDを量産したいと考えるはずだ。ところが、その方針を現場に押し付けるほど、設計、開発、量産の各現場は混乱する。その結果、最悪の場合は、エルピーダのように空中分解して、1+1=2にもならず、1+1=0.5以下になってしまうかもしれない。

WDが買収した場合

 WDが東芝メモリの筆頭株主になった場合はどうなるか? そもそも、WDは東芝メモリと共同で、3次元NANDを設計し、プロセス開発を行い、量産している。したがって、SK Hynixの悲惨な状態には陥らないかもしれない。

 しかし、これまでと何ら変わりなく、設計、プロセス開発、量産が行えるかどうかは難しい。それは、これまで設計ではWDがイニシアチブを持っており、一方、プロセス開発や量産では東芝メモリがイニシアチブを持っていたことに起因している。つまり、WDは設計に強みがあり、東芝メモリはプロセス開発や量産に自信があることから、WDと東芝メモリが(良い緊張状態を保ちながら)補完関係になっていたと推察される。

 ところが、WDが東芝メモリの親会社になると、この補完関係が崩壊する可能性がある。旧サンディスクのWDの知り合いからは、「本当はこちらの装置を使いたいのだが、東芝の意向で違う装置になってしまった」という不平不満を聞くことが多い。つまり、プロセス開発や量産では東芝メモリが主導権を握っているとは言っても、WD側には不満分子が多数いる。

 例えば、WD(旧サンディスク)の日本法人の小池淳義社長は、筆者と同じ日立出身であるが、日立でDRAM工場に在籍していた時代は、製造装置メーカーとともに先進的な装置開発を強力に推進してきた人物である。にもかかわらず、プロセス開発や量産で、東芝メモリに口出しできないというのは、愉快な状態ではないだろう。

 そのため、WDが東芝メモリを買収した場合、WDと東芝メモリには上下関係ができ、その結果、これまでは東芝メモリが主導権を持っていたプロセス開発や量産に対しても、WDが大きな発言権を有するようになるだろう。そして、これまで築きあげてきた(良い緊張状態を保っていた)補完関係は、崩壊すると思われる。

同業他社による買収は現実的でない

 WDやSK Hynixなど、NANDの同業他社が東芝メモリを買収する際の障害や問題を説明した。第1に独占禁止法の障害をクリアしなくてはならない。第2に買収資金が足りないためにファンドなどと共同で応札するために取締役会が無いも決められない烏合の衆になる。そして、設計、開発、量産の各現場では無用な混乱が生じるだろう。

 さらにWDは、東芝との初期の契約を盾にとって、「東芝メモリを設立することも契約違反」である上に、「東芝メモリを他社へ売却することも認められない」と言いだした。東芝メモリの売却は1月中旬から既定路線になっていた。にもかかわらず、3月29日に1次入札が行われ、4月1日に東芝メモリが設立された後の今になって、このようなことを言いだしたために、より混乱を大きくしている。

 果たして東芝メモリはどこが落札するのだろう? そして東芝メモリの行方はどうなるのだろう?
  
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