任氏が秘書室長に内定したというニュースはなぜ韓国内で大きな話題となったか。
それは文大統領が「親北」だという批判はあったものの、まさか従北勢力の核心とも言われる任鍾晳を側近として任命するとは、想像もしていなかったからである。韓国では政治家が「親北」だと名指しされた場合、イメージを払拭しようとするのが一般的である。側近としてイデオロギー性向が強くない人物、中道性向の人物を登用し、思想的に均衡感覚のとれた人間であることをアピールする。偏った思想の持主でないことを示し、国民を安心させるためだ。
ところが、文大統領は自分よりはるかに「親北」と分類されている任氏を起用しようとしている。これは事件とも言っていいレベルの選択だ。そして文大統領の任氏に対する信頼の大きさを示すとともに、「従北」という批判は気にしないという宣言ともみることができる。
金正日に対する賛辞がSNSで広がりネット上は騒然
北朝鮮から「先生」と呼ばれる関係
任氏の内定ニュースが流れた10日、韓国のネット上が騒然となる出来事が起きた。過去、任氏が書いたものと見られる文章がSNSに出回り、国民にショックを与えたからだ。それは2010年労働解放実践連帯というサイトに任鍾晳と名前で書かれた文章で、金正日の「先軍政治」と「同士愛」を礼讃する内容だったが、「親北」というより独裁者を崇拝する「信仰」とも取れるような内容だった。
文章が掲載されていた労働解放実践連帯のサイトにはアクセスが集中し、トラフィック超過の為にサーバーがダウン、11日15時現在アクセスが停止されていたことからも韓国人がどれだけの驚きをもってこの文章を読んだかがうかがえる。
ただ、この文章を書いたのが本当に本人かどうかは定かではない。それについてはマスコミの追及もなく、本人が否定も肯定もしていないからだ。
ところで、任氏は金正日死亡時に弔意文を送っている。これに対し北朝鮮が返礼をする際、彼の名前に「任鍾晳先生」と敬称をつけ、礼を尽くしている。韓国大統領や政治家に対しても「先生」という敬称をつけることがない北朝鮮である。
例えば、韓国では「親北」と批判されることがある金大中前大統領さえ、就任初期は北朝鮮の労働新聞から「クズ」呼ばわりされていた。それに比べたら「先生」は北朝鮮にとっての彼の位置づけを窺い知ることのできる事例ともいえるだろう。