2024年4月26日(金)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年7月19日

 生き物と折り紙の関係もおもしろいテーマ。折り畳まれた平面素材を広げるというのは、トンボなどのはねのひらき方に近いものがあります。それ以外にも、植物のつぼみが花開くときに中でどのように折り畳まれていたのか。そこに注目すると工学的にも役立つ構造が発見できるかもしれない。実際に、トンボのはねが開くメカニズムはJAXAの研究者によって研究されています。

●曲面、立体、コンピュータで設計、というのが先生の折り紙の特徴だと思いますが、折り紙界では異端的な存在ですか?

——いいえ、そうでもないです。折り紙の世界はけっこう懐が広くて、いろいろなものを受け入れてくれる素地がありますよ。紙の形は正方形でないとだめだとか、道具を必要とするような折り方はだめだとか、その人なりのこだわりを持っている人もいる一方で、紙以外の素材を使うなど、さまざまな方法で形の表現を実験されている人がいます。

 僕がコンピュータで設計する作品は、基本的には立体を包んだような形をしているのですが、その形にはいくつかの種類があって、大別すると包み方による違いと、外に付く突起の形の違いによって分類できます。いずれも軸対称な形を中に包んだようになるのが特徴です。たとえば、あめ玉を紙で包むときって、きゅきゅっとしぼる形になりますよね。そのしわをきちんと計算してきれいな形状になるようにしたのが、僕の作品の特徴と言えます。

●知的な“形”を模索し続けているわけですね。ところで、いまや「ORIGAMI」という単語は世界中で使われているようですが、折り紙を研究しているのは日本人だけでしょうか?

——いいえ。海外でも折り紙の研究は盛んに行われています。特にコンピュータを使った折り紙の設計理論は海外のほうが盛んだったりします。物理学者であるロバート・ラング氏の作品には、とても精巧な昆虫や動物の形があるのですが、これは手作業の試行錯誤で作りだせるレベルではありません。彼は必要な脚の本数や長さなどの骨格情報を入力して展開図を自動的に導きだすシステムをコンピュータ上に作ったんです。

三谷氏が影響を受けたという、コンピュータ・サイエンス学者デビッド・ハフマンの「ハフマンタワー」を再現

 私の場合は、動物のような具体的に対象物があるものの形を作るのは苦手で、幾何学的におもしろい形のみを追求しています。何かの形を再現しようと思って作るわけではなくて、写実的な志向はありません。1枚の紙で、どんなおもしろい形ができるのかなと考えたときに、今やっている曲面を持つ立体折り紙に思い至りました。

 海外の人は、折り紙が子供のものという偏見がないので、純粋に学問の対象としてみることができやすいんでしょうね。日本では、私もそうでしたが、折り紙は子供の遊びという先入観がありますね。学問の対象として研究するというとちょっと珍しがられる。でも海外では純粋に研究の対象になります。子供の遊びとは最初から思ってない。芸術や学術の範疇ですね。

●なるほど、日本と海外では、折り紙に対するスタンスが違うんですね。次は、先生がなぜ折り紙研究者になったのかを伺います。

※後篇(つづき)はこちら

◎略歴
■三谷 純〔みたに・じゅん〕
筑波大学大学院システム情報工学研究科准教授。1975年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。09年から現職。著書に『ふしぎな球体・立体折り 紙』(二見書房)など。
HPはhttp://mitani.cs.tsukuba.ac.jp/

「WEDGE」 8月号より

 

 

 

 

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