ネット文脈を読まない雑誌編集者たち
インターネット上の炎上をあまり知らない人の中には、なぜこの記事がここまで炎上するかわからない人もいるかもしれない。一昔前であれば、こういった記事は普通に読まれていた。主に男性誌、女性誌の中で。それこそ、岸田氏が手がけてきた『LEON』や『NIKITA』では、こういった指南こそが読者が求めていたものだったのだろう。岸田氏は同じように語ったまでだ。
雑誌の中でもてはやされた恋愛テクが今や大炎上する根底には、薄っぺらい虚構を語るメディアへの嘲笑があるのだろう。マスコミが上から目線でモテ指南や各種ノウハウを説くことができる時代は今や完全に終わっている。一般人が自撮りをし、自己プロデュースをし、ツイッターやインスタグラムで何万人ものフォロワーを獲得できる時代。そして、「男心をつかむモテしぐさ10」といったお手軽モテ指南の無料コンテンツは量産され尽くされ、誰もが飽き飽きしている。こんなものは「誰にでも言えることだ」とネットユーザーの全てが気付いており、消費者目線まで降りずに語ろうとする「業界人」に、ネットユーザーは非常に冷たい。
さらにこの記事には、若い女性に「教えてやる」という上から目線、知ったかぶりなマナー指南、会話に乗じた一方的なセクハラ行為など、ほぼ一行ごとに炎上する要素があるのだから救いようがない。
個人的には、これがもし狙った炎上記事なのであれば(その可能性はほぼゼロだろうが)、締めの部分で「50〜60代は経済的に恵まれてきた奇跡の世代」と書くのが非常に秀逸な煽りだと感じた。バブル世代以上に対する氷河期世代以下の憎悪たるや。これが雑誌であればターゲットである50〜60代ばかりが読むのだろうし、感想もすぐにはシェアされない。しかしこれはネット記事なのだ。経済的に恵まれてきた奇跡の世代なら、美術館ならコストもかからないとかせこいこと言うなと突っ込まれもするだろう。
ちなみに、ネット上では今から5年以上前、2012年の時点ですでに「文化系説教ジジイにモテない方法」というまとめが作成されていた。これは作家の柚木麻子さんが、女性に対してとうとうと蘊蓄を語る厄介なジジイの具体例と対処法をツイートしたもの。このように、「知識をひけらかす年長者はうざい」「説教に見せかけたパワハラセクハラを許さぬ」というスクラムが着々と組まれてきた土台がある。
雑誌の文脈をそのままネット上に持ち込むのが危険であることは以前から指摘されてきた。そのあたり雑誌の編集者もそろそろ注意してはどうかと思うところだが、恐らくネットでの炎上は雑誌の購買部数に影響は与えない。何人かのネットユーザーが指摘する通り、当のちょいワルジジたちはツイッターなどやっていないのであろうところが、また頭の痛いところだ。
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