2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2017年7月8日

 中国政府が、香港のライバルである上海の金融規制を緩めれば、香港の金融都市としての魅力は少なくなるだろう。それは間違いないのだが、香港人は商人で強かで、お金への嗅覚には凄まじいものがある。現在、香港市内のあちらこちらに薬局があるが、それは「開けば儲かる」からだ。もし薬局で稼げなくなったら、違う商品を探せばいいと思っている。事実、10年ほど前には、CDやDVDを売る店が多かったが、動画サイトの普及等の影響で売上が激減。多くが薬局に取って代わった。さらに大きな視点で言えば、金融都市である香港は、昔は「海運の街」であった。香港フラワーでも有名だが、造花の産業も有力だった。

 こうして香港の歴史を振り返ってみると、金融都市としての利点がなくなれば香港が衰退するということではなく、金融都市でなくなったとしても、次の産業を新たに作りだしていくと考えたほうが自然だ。

香港はなかなか赤くはならない

 この先も香港は中国化が進んでいくのだろうか? 700万人の人口のうち150万人が中国本土からの移民だが、彼らは富裕層が多い。彼らがマンションを買うことで価格は高騰、この10年で3倍になった。 

 もちろん中国からの移民が来る前からすでに香港のマンションは高額だったが、普通の市民が仕事を頑張れば購入できるレベルだった。しかし今では高額になり過ぎて、香港市民がマンションを買うのは完全に〝夢〟になってしまった。

 また、香港には多くの中国人留学生がおり、卒業後は香港の一流企業に就職することが少なくない。香港企業も中国本土とのコネを期待して採用を優遇する。つまり、香港人は就職でも厳しい立場に置かれている。

 では、その後、香港に住み続けた中国人の富裕層と留学生の子どもたちの世代はどのような考え方になるかというと、彼らは香港で育つため、香港人的な思考様式になる。筆者の知り合いで、約40年前の6歳の時に北京から香港に移住してきた人がいる。彼女は移住してきたことを理由に差別を受けながらも、最終的には仕事で大成功し、3人の子どもにも恵まれた。しかし、その子どもは「香港人」なので、「中国人は嫌い」だという。

 中国からの移民第1世代は、香港人との間に様々な摩擦が起こっているが、2世代目は香港人になってしまう。3代目はさらに香港人となるだろう。現在の中国人留学生たちの子ども世代は香港人なので、今の香港人のように就職に苦労することになるだろう。

 外部のやり方はいつの間にか香港のやり方に組み込まれてしまうという奥深さ、懐の深さがあり、中国化については「3歩進んで2歩下がる」という状況だ。今後も政治的には中国政府に翻弄される事態が続くだろうが、1国2制度が終わる47年までは、香港は相変わらずの「商人の街」であり続けると思われる。(敬称略)

  
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