世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月14日

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 これ程の屈辱的な失敗には先例がないでしょう。必要でない選挙に打って出たために議会の過半数を失い、政権は弱体化し、首相の権威は傷つき、議会は更に分裂を深めることとなりました。地滑り的勝利でBrexit交渉のための国内基盤を固め、必要な妥協を可能とする環境を整えたいという思惑だったと思われますが、無残にも打ち砕かれました。通常なら、メイ首相は辞めて当然でしょうが、少なくとも現時点では続投する構えです。史上最短の在任期間で辞めることはプライドが許さないのかも知れませんが、Brexit交渉を目前に控える尋常でない状況で、保守党の党首選挙をしている暇はなく、これといった後継者も見当たらず、止むを得ざる続投であるのかも知れません。

 選挙結果を受けて、メディアが一様に指摘していることが2つあります。第1に、メイが志向するBrexitはハードなBrexitですが、メイに最早その資格はなく、進路を変えるべきだというものです。この論説もそうです。ハードなBrexitとは単一市場から離脱するBrexitという意味のようです。そういう意味でなら、BrexitはBrexitであって、ハードもソフトもありません。EUから離脱する以上、単一市場のメンバーシップを失うのは当然です。メンバーシップは失うが、日本や中国と同様、単一市場に対するアクセスはあります。メイが言って来たことは、このアクセスを出来るだけ有利なものとするよう野心的な貿易協定を結びたいということです。その交渉次第でBrexitはハードにもソフトにもなります。

 第2に、上記と関連しますが、メイは強くて安定したリーダーシップを自分に任せろと頑強に繰り返すのみで、Brexitのビジョンを語りません。これを国民に具体的に語る必要があるというものです。この論説もそうです。それが出来ればそれに越したことはありませんが、交渉相手のあることで、限界があります。キャメロンは交渉目標を明らかにし過ぎて失敗し、メイは当初から交渉の実況中継はしないといってきました。メイにとって必要なことは、そういうことではなく、Brexit交渉には無限の可能性があるわけではなく、一定の枠の中での可能性しかないということを国民に納得させることではないかと思われます。

 この論説の筆者は、Brexitは間違いだと思っていますから、Brexit全体が崩壊しても構わないといっています。少なくとも、欧州経済領域にとどまる可能性に救いを見出そうとしています。これはノルウェー型のモデルのことだと思いますが、このモデルでは単一市場のメンバーに類する待遇を得られますが、その法制には一切発言権がなく、財政負担も求められます。英国民の意識に革命的な転換がない限り、オプションになり得る筈はありません。

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