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世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月14日

 英フィナンシャル・タイムズ紙のフィリップ・スティーブンスが、6月10日付の同紙で、選挙に敗北したメイ首相だが、混乱の中にも救いを見出すチャンスはあるという論説を書いています。論旨は以下の通りです。

(iStock.com/Anastasiia_M/Tabitazn/Ingram Publishing/Wavebreakmedia Ltd)

 時には混乱の中にも救いがある。総選挙の結末はEUとの将来の関係の在り方を考え直す機会でもある。Brexitはメイ政権が想像するような激烈な断絶である必要はない。しかし、好ましい結果を得るにはEUの寛大さと忍耐を試すことになる。

 メイは大威張りで交渉に臨もうとしていた。離脱派は国を死に体から解き放つのだと吹聴していた。選挙で新たなマンデートを得て、メイはEUにその振舞いを改めさせる算段であった。従って、EUが情容赦なかったのは仕方ない。誰も英国が勝手に落ちた穴から救い出してやろうと思わなくても仕方ない。しかし、ロンドンの政治的麻痺は極端なBrexitを脱線させ、もっと緊密な関係へのチャンスを開く。また、ほんの僅かだが、Brexit全体が解体することも可能である。どちらも欧州及び英国の戦略的利益にとって関係断絶よりも好ましい。

 昨年、英国の有権者は僅差でEU離脱を選択したが、今度はメイをはねつけた。「主張が通らなければ席を立つ」という馬鹿げた脅しは子供の遊びでしかなかった。有権者が意識的に立場を転換したと見ることは間違いである。自分こそが強く安定したリーダーだと主張したメイの正体はおよそそうではないことが見破られた。Brexit選挙だといいながら、メイはそのオプションを議論することを拒否した。有権者の動機は複合的であるが、Brexit交渉に対する影響には重大なものがあろう。メイは、暫くは少数派内閣を率い得ようが、彼女の思い描くBrexitについて信認が与えられたとは最早いえない。単一市場と関税同盟を離脱するという約束は、下院の支持が得られない以上、実施不可能である。

 コービンは労働党が呑み得るBrexitは何かをわざと曖昧にしているが、メイの処方箋は明確に拒否している。メイの屈辱的敗北によって保守党内のバランスも動いている。国民投票以来静かにしていた親欧州派が首相官邸に物をいうチャンスが生まれている。

 英国には少数派内閣の経験はあり、メイは北アイルランドの民主統一党の支持を得ることになっている。しかし、少数派内閣がEU離脱というような巨大な問題に遭遇したことはこれまでない。議会にはBrexitに必要とされる法案可決に必要な実効的多数はない。一方で、レームダックの首相だと知っているEUを相手にメイは交渉するわけである。

 メイには汚名を返上する残されたチャンスが1つある。それは、英国を欧州経済領域にとどめ置くソフトなBrexitについて政党間のコンセンサスを得ることである。このコンセンサスが得られれば、メイはこの取引について国民投票を行うことを約束出来る。もし、メイがこの方向に動くのなら、メルケルとマクロンは交渉の時計の針を止めて助けてくれて然るべきである。英国人には付き合い切れないと思うであろうが、欧州はそれだけ重要なのである。

出典:Philip Stephens ‘Post-election chaos promises Britain Brexit salvation’ (Financial Times, June 10, 2017)https://www.ft.com/content/c4a3984e-4d02-11e7-919a-1e14ce4af89b


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