出版社とファンたちはこれを許さず、コナンドイルも再開の要望に応えて「ホームズの帰還」シリーズを執筆した。原作では柔術のような巧みな技によって、滝つぼから落下したホームズが助かった筋書きだった。
「SHERLOCK」シリーズは、原作を巧みに現代に置き換えてシャーロキアンを満足させてきた。「SHERLOCK 2」(2012年)の最終回でビルから落下して血を流して死んだはずのホームズは、協力者である法医学者のモリー・フーバー(ルイーズ・ブリーリー)らと計画を練ったうえで、落ちる途中の階に突入し、死体は入れ替えた。「SHERLOCK 3」(2014年)でホームズは復活して、今シリーズにつながる。
「六つのサッチャー」は
「六つのナポレオン」が下敷きに
第1回「六つのサッチャー」は、シャーロキアンならすぐにわかる原作の「六つのナポレオン」が下敷きになっている。ナポレオン像が次々に壊される。それは「ボルジアの黒真珠」をひとつのナポレオン像に隠した犯人が、真珠を探し出すための犯行だった。
現代版ホームズは、いつものようにシャーロキアンの鼻をくすぐって、いったんは喜ばせるが、物語は意外な展開を見せていく。
サッチャー像に隠されていたのは、「ボルジアの黒真珠」ではなく、ワトソンの妻であるメアリー(アマンダ・アビントン)の秘密が入ったUSBメモリーだった。看護婦のメアリーは、過去のシリーズで凄腕のスナイパーであったことが、ホームズによって明らかにされている。
今回の事件は、トビリシの英国大使館が占拠され大使が人質になった過去が絡んでいた。メアリーは仲間たちと英国政府から大使の解放を請け負った。しかし、その情報がいずれからか漏れて、メアリーは九死に一生を得て脱出した。ホームズは、情報を漏えいした人物を特定すべく活動を始める。相棒のワトソンに、メアリーと生まれてきたばかりのロージィを守ることを誓うのだったが……。
毎回の主要な事件のほかに、小さな事件を鮮やかに解決するホームズの手腕がみられるのも、このシリーズの醍醐味である。
今回は、閣僚の50歳の誕生日のパーティの夜に、彼の息子からスカイプを使って、チベットからのお祝いの映像が送られてきた1週間後、息子の車の中から焼死体が見つかる。死亡日時は、チベットからの映像の日という謎だった。
ホームズは、車の中から2種類のビニールの成分が見つかったことから、その息子がシート型のビニールをかぶって隠れる形で座席にすわって、父親が車に近づいたら驚かすつもりだった、と見抜く。息子はなにかの発作で亡くなったのである。
「ゲームが始まればわかる」「ゲームが好きだからだ」
第1回の冒頭のホームズ(カンバーバッチ)の言葉が今シリーズを象徴するのだろう。宿敵モリアーティはどのような形でゲームを始めるのだろうか。
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