2024年11月22日(金)

安保激変

2017年7月13日

フィリピンが諦めない限り、
仲裁判断の有効性が消えることはない

 義務的紛争解決規定はUNCLOSを構成する不可欠な要素の1つであり、すべてのUNCLOS締約国にはこの紛争解決条項に従う義務がある。また、仲裁判断には法的拘束力がある。UNCLOS附属書VIIの9条によって、締約国には仲裁裁判への不参加は認められるが、仲裁手続きと仲裁判断を拒否することは認められない。

 中国は国連海洋法条約に調印した時点で、義務的紛争解決を受け入れているが、最後の手段であった今回の仲裁でさえないがしろにしている。中国の対応はUNCLOS締約国としての義務を無視するものであり、海洋法秩序全体に対する大きな挑戦である。

 だが、当事国が受け入れを拒否した場合、仲裁判断を強制的に受け入れさせる手段はない。しかし、UNCLOS附属書VIIの12条によって、フィリピンは中国が仲裁判断を受け入れない場合、その判断を下した仲裁裁判所にさらなる措置を求めることができる。また、UNCLOSという国連の条約に基づく仲裁判断であるため、フィリピンは国連総会の場で中国の不履行を議題にすることができる。このように、中比の仲裁判断がUNCLOSに基づいているため、フィリピンが諦めない限り、仲裁判断の有効性が消えることはない。

国際政治を動かすのは「権力闘争」か「法の支配」か

 仲裁判断が出た直後、ハーバード大学の著名な国際政治学者グレハム・アリソンは、中国以外の国連常任理事国も自国に不利な国際裁判の結果を踏み倒してきたことを指摘した。そして、「強者は好き勝手に振る舞い、弱者はただ苦しむのみ」とツキディデスの言葉を借りて、国際政治は依然として権力政治であり、法の支配というのは小国の戯れ言に過ぎず、今回の仲裁判断も中国の行動を変えることはできないと主張した。

 これに対して、国連海洋法会議で議長を務めたトミー・コーは、21世紀はツキディデスの時代とは根本的に異なると反論した。コーは、国際社会が長い年月をかけ、法の支配を通じてより安全でより安定した世界を作り上げてきたと述べ、大国が国際裁判の結果を受け入れてきた事例にもふれ、大国も国際法と法の支配を受け入れることが国益だと考えることがあることを指摘した。

 21世紀において権力闘争と法の支配、どちらが国際政治を動かしていくのか、この大きな命題を考える上で、今回の仲裁判断を国際社会と中国がどのように受け止め、行動していくかがその試金石となる。現状では、フィリピンは仲裁判断を棚上げしているが、いずれは仲裁判断に基づいた行動を中国に求める可能性は否定できない。日本としては、長期的視野から、国際社会と連携し、フィリピンへの支援を継続しつつ、仲裁判断の受け入れを中国に求め続ける必要がある。

  
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