ある成年後見人の手記

2017年8月16日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 この書簡には、神戸家裁からコピーを得ていた血族14人の家系図と住所一覧、さらに私が作成した電話番号一覧を添えた。なお、家系図と住所一覧は、後見人選任前の私が雇った弁護士が作成し、家裁に提出したもので、家裁がこの弁護士料を私に負担させたことは既に述べた通りだ。

 翌17日を皮切りに、北九州市の甥、神奈川県相模原市の姪、神戸市の甥・野村敏実(62歳、仮名)から相次ぎ電話がかかってきた。いずれも鳩が豆鉄砲を食らったように、成年後見制度の子細も事の経緯も理解できない様子で、血族相互間の連絡も途絶えているという内容だった。このうち、神戸の野村は私に対して「振り込め詐欺」の疑念を抱いている旨を口走った。ムッとしたが、感情を抑えた。

それでも、信頼関係を築かねば

 年が明けて、松尾由利子の姪で、北九州市に暮らす平田毬子(74歳、仮名)から15年1月16日付の書簡が届いた。

─―初めまして、私は平田毬子と申します。この度は松尾由利子叔母の成年後見人をお引受けいただきました上に大変お世話をしていただきまして心よりお礼を申し上げます。
 つきましては、昨日神戸の野村敏実さんからお電話をいただき北九州在住の私共三姉兄と神戸の田宮悦子、寿子さんに連絡をとってもらい、どの様にするか話をまとめておいて欲しい、そして24日か25日に連絡させてもらうと云う内容でした。
 それでいろいろお教えとアドバイスをいただけたら大変嬉しいです。まず遺産金額はわかりましたが、
 ①負債金はあるのでしょうか?
 ②松尾さんが今までに由利子叔母に関してお立替えになられたりの出費費用(往復の運賃、文書代等々)それらはどう云う風になっておりましょうか。
 お立替えいただいているのでしたら、お支払いするべきと思います。
 私の気持ちとしましては、私共は何もしておりませんので松尾さんがお受取りいただくのがふさわしいと思っているのですが、そしたら相続放棄で裁判所での手続きが生じるのでしょうか。又その裁判所は神戸と云うことになるのでしょうか、それと死亡後3カ月内と聞きましたけどそうなのでしょうか。
 又第二案は、相続を受けるのなら、松尾さんも人数に加わっていただくのが正当と思っています。
 以上のこと御存知でしたらお教えいただきたく思います。私共は今回初めてのことですので他の皆さんもどうしてよいのやらとまどっておられることと察します。
 山口市は北九州市とはおとなり同士のようなものですね、この件が片付きました折には、一度お礼かたがたお会いできましたら幸いです─―

 ようやく、まともな意思疎通が取れ始めた。スムーズな遺産引き渡しのためには信頼関係を築いていくしかない。1月19日付で返信した。

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