ある成年後見人の手記

2017年8月16日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

─―手紙を差し上げて1カ月を経て、血族の方々がどう対応されるか気になっておりましたので、平田様よりの返信を受け取り一安心いたしました。文面より、当惑のお気持ちが読み取れました。もっともなことで、1000万円を超える大金の授受を面識もない一般人同士に委ねる成年後見人制度と裁判所が非常識なのです。(中略)さて、ご質問について、分かる限りのことについて箇条書きでお答えさせていただきます。
 一、由利子様に負債金は一切ありません。入所した施設の精算も全て終わっています。
 二、成年後見人に選任されたのが2009年10月で、これ以降についてはすべて精算済みで、その結果は毎年神戸家庭裁判所で承認を得ています。家裁が私の後見人としての仕事ぶりを毎年評定し、平均49万4000円の「報酬」を5回受領してきました。金の出所は由利子様の資産です。
 ただ、後見人になるには、血族の方々の同意を得ねばならず、それには弁護士を雇わねばならなかったのですが、弁護士料24万3600円は自己負担と家裁が決めてしまいました。また後見人選任を7カ月さかのぼる09年3月に神戸の施設に入れ、見舞いに通い続け、時には東京から妻を呼び世話をさせましたが、交通費も手土産代なども自腹を強いられました。この両者を併せて計約40万円だと思います。
 三、血族が相続放棄された場合、姻族の私に相続権が回って来ることはなく、遺産が国庫に納まるだけです。
 四、姻族には相続権は認められません。私は大いに不満なのですが、法律がそうなっているのだから仕方ありません。私に厚意を示されようというのであれば、「謝礼」という形式をとった上で、血族各位の連署連判状を用意されるのが適切と考えます。私も受領の署名捺印をします。これが無いと、私が強要などしたように疑われかねません。納得できないことですが、成年後見人という立場は非常に難しいのです。
 五、片付いた後と言わずとも、北九州のお三方で一度いらしたら如何ですか。湯田温泉もあることですし、宿舎の予約をさせていただく用意もあります。会ってざっくばらんに話せば、開けてくる道があるかもしれません─―

 しかし、肝心の実務は進まない。血族側から遺産の授受について具体的な提案が無いまま、15年2月半ばとなった。こちらから仕掛けねばならない。私を振り込み詐欺と疑ったことを吐露した神戸の野村敏実は、相手にしたくない。地理的な近さもあり、北九州市在住の姪、平田毬子に声を掛けることにした。

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