2024年4月27日(土)

ある成年後見人の手記

2017年8月16日

5カ月を要した死後事務

 2時間ほどの話し合いでは、我々と彼女たちの間に何も異論は出なかった。むしろ、これまで会ったことすらない血族の間での意見調整の難しさを愚痴るのを聞かされ、私たち夫婦が同情の言葉を述べた。通帳を渡し、現金は週明けに平田毬子の口座に振り込むこととした。

 温泉宿に送り、平田毬子ら姉妹が入浴を済ませた後に4人で小料理屋に行き、夕食をご馳走していただいた。世間話も弾み、酒杯も重ねた。

こうした経過を確認し合ったのが、次の覚書だ。私と平田毬子、熊本妙子が署名捺印した。

─―◎覚書
 故松尾由利子の成年後見人を務めた松尾康憲は2015年2月21日土曜、山口市内において、由利子の血族の代表である平田毬子と熊本妙子両人に対して由利子の遺産のうち、ゆうちょ銀行の通帳2本計1244万8788円を引き渡し、平田毬子と熊本妙子は、これを受領した。
 さらに、現金191万5520円を、松尾康憲が2月23日月曜に、平田毬子の預金口座に振り込んだ。
 これにより、授受した遺産の総額は計1436万4308円となった。
 松尾康憲が昨年12月に血族各位に報告した際、現金は192万804円と伝えていたが、一報の簡易書留などの郵便料金4420円と送金手数料864円の計5284円を差し引いた。
 松尾康憲と平田毬子、熊本妙子は、上述の事実を確認し、ここに署名、捺印するとともに、他の血族各位に了解を求める次第である─―

 覚書は、他の血族の同意も得るべく平田毬子ら姉妹がいったん北九州に持ち帰った。話し合いから1カ月以上を経た3月27日付封書で、ようやく覚書が戻ってきた。

 09年3月に由利子を有馬の奥の施設に送り込み、この年の10月6日に成年後見人に選任されて以来の務めが、ようやく終わったと思った。前述の通り、神戸家裁の書記官は「被後見人が死亡すると、後見は終了し、康憲様は、後見人という立場ではなくなります」と気楽な書面を送ってきたが、由利子が逝ってから覚書を受領するまで、死後事務は約5カ月を要したのだ。それも平坦な道ではなかった。やっと解放感が湧いてきた。
(つづく・『精根尽きた後見活動、二度とできない【ある後見人の手記(9)】』)
伯母を見捨てた血族への相続、何でワシが【ある成年後見人の手記(7)】

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