ある成年後見人の手記

2017年8月17日

»著者プロフィール
閉じる

松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 最高裁事務総局家庭局の『成年後見事件の概況』各年まとめによると、11年に成年後見人およびそれに準じる保佐人や補助人に選任された人のうち55・6%が、被後見人らの配偶者や親子はじめ四親等以内の親族だったのに、16年には親族が後見人などになる例は28・1%とほぼ半減し、71・9%は親族以外の人々、つまり俗にいう「赤の他人」が担っている。その大半を弁護士と司法書士、社会福祉士(ソーシャルワーカー)といった専門職が占め、残りのごく少数が市民後見人である。

 なお『成年後見事件の概況』は、後見人らになる人々の区分けで「親族」と一括しているが、現実には、遺産相続権を有する血族と、そうでない姻族とを司法こそが厳然と分けているのであり、統計上の区分もそれを反映するべきであろう。

浸透しない後見制度

 この2つのデータを並べ読むと、自力で暮らせない高齢者の人数が激増し、社会的セーフティネットとして代替する制度が無いから成年後見制度の利用がますます増える勢いなのに、筆者のような姻族ばかりではなく血族も含めた親族が、後見人などを引き受けなくなっている、という傾向が浮かび上がるのではなかろうか。その理由を役所の文書は説明していないが、既に述べてきた私の成年後見人体験から、読者には推察されるところがあるのではなかろうか。私に言わせれば、成年後見制度の実定的内容と司法主導の運用のいずれもが、現実から乖離しており、後見人にも被後見人にも親切でないから、親族の後見人忌避が起きているのだと思う。

 みずほ情報総研株式会社は17年5月19日に、認知症の人に対する預貯金・財産の管理を支援したことがある40歳以上の男女(2000名)を対象に実施した「認知症の人に対する家族等による預貯金・財産の管理支援に関する調査」の結果を公表した。調査によると成年後見制度を利用している者はわずか6.4%であり、「成年後見制度のことは知っているが利用するつもりはない」との回答が55.4%を占めた。その上で「考察」として、「この背景には、成年後見制度の申請において複雑な手続きを踏まなければならない、成年後見制度を利用しなくても不便を感じていないなど、支援者にとって、利用に対するインセンティブが働いていないことがあると考えられる」、「現在の日本では、法定後見制度の中で障害の最も重い場合に適用される『後見』については、本人以外の者が申し立てる方法が主流となっている。成年後見制度の利用促進にあたっては、支援者の視点をこれまで以上に取り入れることが求められるのではないか」と指摘している。

 次に引用するのは『名古屋市成年後見あんしんセンター』がインターネットで公開している成年後見制度の概略で、説明書の多くに共通する内容だ。後見人の仕事は①被後見人に代わっての「財産管理」と②被後見人の生活や健康に配慮し、安心した生活が送れるように契約などを行う「身上監護」に大きく二分される、と書いてある。これは納得できる。

関連記事

新着記事

»もっと見る