2024年5月6日(月)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2010年9月6日

 最近、ジミー・カーター元大統領が錯乱した米国人教師を北朝鮮から「救出」したにもかかわらず*注、米国と北朝鮮の間で正式な外交上の会話が交わされたという情報は一切ない。その一方で、北朝鮮の金正日総書記が核問題を巡る6カ国協議への復帰を望むという言葉に説得力を持たせようとする必死の努力が見られるようになった。

 今月のコラムを執筆している最中にも、中国政府は正式に金総書記が最近中国北部を訪問したことに反応し、オバマ大統領に政策変更を求め、交渉復帰に同意するよう「理詰めで説得」するために、ワシントンに高位の外交官を送り込んでいた。

 交渉復帰が実現する可能性は残っているとはいえ、我々は正直言ってないと思っている。今回、読者の皆さんへのリポートを準備するために、ホワイトハウス高官に直接話を聞いた内容から、我々は確信を持ってこう言える。

 金総書記は2005年および2007年にブッシュ政権と交わした約束を放置しており、オバマ大統領としては、総書記がその約束を果たすために重大な「非核化」への動きを見せるまで(あるいは見せない限り)、北朝鮮を正式交渉に再度引き入れることを断固拒むだろう。

 「誠意」と「真剣さ」を証明するために、北朝鮮は具体的に何をする必要があるのか(この2つの言葉はホワイトハウスと国務省の関係者が最も頻繁に使う言葉だ)――。こう尋ねると、「実際にそれを見たら分かる」という答えが返ってきた。

 二枚舌を繰り返してきた北朝鮮の実績を考えると、それも無理からぬことなのかもしれない(何しろ、ブッシュ政権下での6カ国協議の真っ最中には、北朝鮮がシリアに核兵器製造工場を建てたことが明らかになった)。しかし、オバマ大統領の態度は、実際にどうすれば「合格」できるのかを示すことなく、北朝鮮政府に「試験」を課すようなものだ。

 このため、専門家の支持者でさえ公然と、過去の悪行について北朝鮮を罰するために制裁を強化するという今の米国の政策が、将来「善行を強要する」ことにならないかもしれないと心配する状況に陥っている。

 実際、北朝鮮のこれまでの行動が何らかの指針になるとすれば、金総書記や北朝鮮のエリート層がいよいよ現金が欲しくてたまらなくなると、ある時点で、現金を手に入れるためにミサイルと核技術を売って核拡散が起きる可能性が高まる。

 同じように、ワシントンの「政策エリート」の間で高まりつつある議論がある。彼らはオバマ大統領の政策には最初から組み込まれた問題があると考えており、北朝鮮が核兵器を完成させ、核爆弾をミサイルに積んだ核弾頭として「兵器化」する努力を続けるのを何としてでも防ぐための積極的な対策を何も講じていないと懸念している。

 さらに、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICMB)の完成を目指すのを防ぐ積極的な対策も存在しない。北朝鮮の中距離ミサイルは既に、日本および韓国全域と中国東部の大半を戦略的脅威にさらしている。

オバマの歯がゆい胸のうち

 最後に、オバマ大統領の政策を強く支持する向きでさえ、米朝両政府間の外交対話が完全に途絶えた状態は、どちらの側も、双方が相手の戦略的脅威をどう見ているのかを議論するのが不可能であることを意味していると訴える。互いの見解と懸念を明確にすることで、緊張を和らげる方法を見いだせると期待してのことだ。

 今、ホワイトハウスが直面する仕事は、米国の政策(北朝鮮の核兵器とミサイルを一切許容しないこと)と米国の外交(政策を実践する方法を見つけること)の溝を埋める政策をはっきり示すことだ。

編集部注:今年1月、中国から国境を越え、北朝鮮へと侵入したボストン出身の男性、アイジャロン・マリ・ゴメス氏(31)が北朝鮮当局に拘束され、8年の労働強化刑を言い渡された。一時は絶望のあまり自殺を図ったとも伝えられたゴメス氏だが、ジミー・カーター元大統領が私人の立場で8月に訪朝、氏を帰国させ た。北朝鮮側は、帰国は「恩赦」と伝えている。

 
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