2024年5月7日(火)

ネルソン・コラム From ワシントンD.C.

2010年9月6日

 もし今の世論調査の情勢が11月まで続けば(歴史的に9月第1週の有権者の態度は、確かな指標となる)、共和党は上院の過半数を奪回するのに必要な39議席を大きく上回る議席数を獲得するだろう。内々には、最大で60人もの共和党下院議員が来年1月に正式就任するとの試算もある。

 世論調査によれば、現在、民主党が全議席の半数プラス9議席を押さえている上院では、10人ないしそれ以上の共和党議員が11月の選挙で議席を獲得する見込みだ。そうなれば、民主党が引き続きホワイトハウスを支配する一方、野党・共和党が上下両院の支配権を押さえることになる。

レイティネン女史の動向にご注目あれ

 日米関係に関して言えば、この情勢は上院より下院の方がはるかに大きな意味を持つだろう。というのも下院では、共和党が支配権を手に入れたら、イリアナ・ロス・レイティネン議員(フロリダ州選出)が国際関係委員会の委員長に選出されると見られるからだ。

 レイティネン議員は、フィデロ・カストロ前国家評議会議長の支配下にあったキューバから亡命してきた超保守派議員で、好戦的にして宗教的な(どんなに言葉をもってしてでも、背後にあるこの気持ちまでをも伝えるのは難しい)反共産主義者であり、徹底した「人権」派だ。

イリーナ・ロス・レイティネン議員。
2007年には拉致被害者家族会や平沼赳夫議員とも面会しており、拉致問題解決なくして、北朝鮮のテロ支援国家解除はないと主張。
彼女のホームページサイトは、
http://ros-lehtinen.house.gov/

 このことはオバマ大統領が温めているかもしれない、よりオープンで前向きな対キューバ政策にとって問題が生じる前触れとなりかねない。だが、WEDGE Infinityの読者の皆さんは、ロス・レイティネン下院議員は、中国および北朝鮮の人権問題と、日本との「歴史問題」の人権的側面について超好戦的なアプローチを取るアジア政策で最も知られているということを理解しておく必要がある。

 具体的に言えば、彼女は自身のことを、従軍慰安婦および第2次世界大戦の戦争捕虜に関する日本との紛争(戦いと言ってもいいかもしれない)の擁護者と思っていて、かつ、これまでの実績からして、そうした紛争が2国間関係やより大きな日米戦略関係に与える影響には無関心なのだ。

 ロス・レイティネン議員はかねて、外交の“抗議決議会派”の有力な提唱者だった。2011年には彼女が、中国、北朝鮮、ミャンマー、ベトナムの人権、宗教の権利に対して今よりはるかに攻撃的なアプローチを取るほか、未解決で議論を呼ぶ日本との第2次世界大戦問題に対するかなり「好戦的」な決議を受け入れ、ことによれば自ら提案すると考えていいだろう。

 もっとも、これは現在の世論調査が正確であると仮定し、さらに、ほかの下院議員が彼女の長年の貢献と、年功によって委員長に就く「権利」に敬意を払うと仮定しての話だ。

 日本に関連した真に「難しい」歴史決議が完全に議会を通過する歯止め役となるのは、恐らく上院だろう。それは、共和党が上院も奪回した場合に、元上院外交委員会委員長のリチャード・ルガー議員(インディアナ州選出)がやはり年功と貢献によって再び委員長職を与えられると仮定してのことだ。上院でも共和党が過半数を押さえる可能性は高まっているとはいえ、ルガー議員の委員長復帰は100%確実ではない。反動的とさえ言える、感情的な「保守主義」が高まる時代にあって、彼がこれまでに勝ち得た穏健派としての実績を考えれば、アジアにおける人権その他の権利「侵害」を「罰したい」と考える扇動的な人物がルガー議員に挑戦する可能性は排除できない。

 その点については、「チャンネルをこのまま」にして11月の選挙結果を見守り、年末に改めて論じることにしよう。

冷戦モードのつづく、中朝と米

 さて、今月のもう1つのテーマは北朝鮮だ。WEDGE Infinityの読者の皆さんがニュースを追ってきたに違いないように、今年3月に北朝鮮が韓国の哨戒艦「天安(チョンアン)」を魚雷攻撃で沈没させて以来、韓国政府と北朝鮮政府、そして米国政府と北朝鮮政府の間の政治・外交関係は、雰囲気的には緊迫し、実質的には存在しない状況にある。

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