民放を含めた放送史を描く
戦後の放送史をめぐっては、今回のドラマと同じ枠で「トットてれび」(2016年)が、黒柳徹子の半生を満島ひかりが演じた。NHKのテレビ放送の草創期から、黒柳が民放でも活躍する時代を描いた。TBSの「ザ・ベストテン」であり、テレビ朝日の「徹子の部屋」である。
NHKが民放を含めた放送史を描いている。今回は「トットてれび」の時代と並行していた民放の歴史であり、その第2部ともいえるだろう。
草創期のテレビの人気者たちが、いかに忙しく疲れていたかに驚く。「トットてれび」の黒柳が過労から倒れたように、植木(山本)も倒れて入院生活に入る。
「シャボン玉ホリデー」のコントは、植木をはじめとするクレージーのメンバーが出番の直前までセットの片隅で寝ているのだった。
植木(山本)の入院をきっかとして、乗用車のセールスマンをしていた松崎(志尊)が付き人兼運転手として採用される。「シャボン玉ホリデー」の脇役でデビューして、1970年代末に「電線音頭」などのヒットを飛ばす、コメディアンの小松政夫である。
植木は松崎を自宅の一室に呼んで、松崎の身の上を聞いて父親が幼いころに死んだことを知っていう。
「これからを俺のことを、おやじと呼べ! さぁ、いってみろ」
恐縮してなかなかいいだせない松崎。部屋のドアを開けて、登場する植木の父親・徹誠(てつじょう・伊東四朗)。
「俺のことは、おじいちゃん、とは呼ぶなよ」
この徹誠は、御木本真珠店の職人から僧侶になって、戦前から非戦と差別問題に取り組んだ人物である。植木に大きな影響を与えた。週刊朝日に80年代に自らがその思いで語った連載をてがけた。「夢を食いつづけた男――おやじ徹誠一代記」として残された。
ドラマの植木の周りに集う群像のなかに、放送史のみならずさまざまな分野で戦後を駆け抜けた人物が次々に登場する。
植木(山本)に映画出演を伝える、東宝のプロデューサー藤本真澄(白井晃)は、「青い山脈」(今井正監督)をはじめ、成瀬巳喜男監督の「めし」、「浮雲」、「流れる」などを世に出した。
「スーダラ節」の作詞家である青島幸男(安井順平)は、放送作家として草創期のテレビ界をけん引し、のちに政治家に転じて東京都知事も務めた。
語りは、小松政夫。「コメディアンは歳をとるとシリアスになりがちだがアタシはアレがイヤでね、アレってなんだろうね?一貫して“アチャラカ”でおフザケを忘れたくないんですよ。だってコメディアンは格好いいじゃないですか、と、アタシは思うわけです」(「時代とフザケた男」最新刊)
芸能生活50年のベテラン俳優が、「おやじ」植木のドラマの語りをするのはふさわしい。
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