2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月12日

 キッシンジャー元米国務長官が、8月11日付のウォールストリート・ジャーナル紙に「北朝鮮危機をどう解決するか」との論説を寄せています。その論旨は、次の通りです。

(iStock.com/Viktorcvetkovic/Purestock/supermimicry/S-S-S/olegtoka)

 北朝鮮の核開発計画は、国際社会の非難にもかかわらず、加速した。

 国連安保理の8月5日の制裁決議は重要な1歩であるが、共通の目標はまだ樹立されていない。もし金正恩が核開発計画を維持すれば、主要な関係国間の地政学的戦略関係は変化し、アジアにおける米国の核の傘、特に日韓両国に対するものの信頼性は深刻に減少するだろう。

 長期的な問題は、米領土への脅威を超え、核のカオスの見通しにまで至る。北朝鮮のICBMは、核の小型化、ミサイルへの搭載、一定量の生産の必要性を考えれば、まだ時間がかかる。しかし、アジア諸国は既に短距離、中距離ミサイルの脅威のもとにある。もしこの脅威が増せば、ベトナム、韓国、日本などが自前の核で防衛する動機は劇的に大きくなろう。北朝鮮が達成したことを逆戻りさせることは、その進歩を阻止することと同様に重要である。

 北朝鮮に対する外交は、主要なプレイヤー、特に米中が重要目的の合意ができず、失敗した。米国は力の行使に乗り気でなかった。マティス国防長官は朝鮮での戦争を「破局的」と述べた。ソウルに向けられた何千の大砲は、大ソウルの3千万の住民を人質にとっている。

 米国の一方的な先制攻撃は中国との紛争の危険がある。北京は一時的には黙認しても、それを認めることは、1950年代の朝鮮戦争のとき同様、ないだろう。

 トランプ政権は、北朝鮮の非核化の外交努力に中国に協力を求めた。しかしこの努力はこれまで部分的にしか成功していない。中国は原則、北朝鮮の非核化を支持しているが、同時に、北朝鮮の崩壊や混乱の見通しから、2つの主要な懸念を抱いている。第1は北朝鮮の危機の中国への政治的、社会的影響で、第2は北東アジアの安全保障(両朝鮮の非核化)である。中国はまた、非核化後の北朝鮮の政治的進化(二国家併存か統一か)と、北朝鮮に課される軍配備の制限に関心を持っている。これまでトランプ政権は中国に、北朝鮮に圧力をかけるよう求めてきた。北京は北朝鮮への圧力が不十分とされたら、米国との関係が悪化する危険がある。米国と中国は、北朝鮮の政治的進化とその領域における軍配備の制約について両国で了解する必要がある。この了解は、既存の同盟関係に変更を加えてはいけない。こういう了解が多分、朝鮮半島危機の行き詰まりを打開する最善の方策であろう。

 韓国と日本もこのプロセスで重要な役割を持つ。韓国はどの国よりも影響を受けるので、政治的な結果について重要な発言権を持つべきである。日本は、朝鮮半島の核を、自分自身の核能力なしに許すことはないだろう。日米同盟の評価は、米国が日本の懸念をどれくらい考慮するかで影響される。

 米朝直接交渉を主張する人もいる。しかし北朝鮮は合意実施に最小の関心しかない。米中間の了解が圧力と機能する保障のために必要である。北朝鮮は最終会合に出ればよい。

 実験凍結が暫定的な解決になるとの示唆があるが、凍結の解釈や査察をめぐり、諸問題が出されるだろう。暫定的な兵器能力を維持する北朝鮮は、次のような危険を制度化する。貧しい北朝鮮による核技術の販売、米国は自国領土の防衛に集中しアジア諸国からの信頼が低下すること、他国が核抑止力を開発する可能性、結果への不満から中国との紛争、他の地域での核拡散、米国での議論の分裂等である。

 非核化への実質的な進展と、その速やかな達成が最も賢明な路線である。

出典:Henry A. Kissinger ‘How to Resolve the North Korea Crisis’ (Wall Street Journal, August 11, 2017) https://www.wsj.com/articles/how-to-resolve-the-north-korea-crisis-1502489292


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