2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年8月31日

 Foreign Affairs誌ウェブサイトに、海外米軍基地は米国にとって益より害が大きいとして、本土からの有事派遣に転換するよう求める論説が、7月25日付で掲載されています。筆者のJohn Glaserは、米Cato研究所外交政策研究部アソシエイツディレクターで、未だ修士コースにいる若手ですが、共和党の茶会系に近い研究所の関係者が発表している点が注目されます。要旨は次の通りです。

(iStock.com/Ingram Publishing/videodet/LightFieldStudios/vkyryl)

 デジタル革命でビジネスの様態は根本的に変わってきているのに、政府だけは変化が遅々としている。最たるものは、世界最大の官僚組織であるところの国防省である。

 これまで海外の基地は、敵性国を抑止する、同盟国を確保する、紛争に速やかに反応する、という3点で存在意義があるとされてきたが、いずれも疑義がある。

 米軍の基地が紛争を抑止してきたかどうかは、検証が難しい。朝鮮半島では韓国のGDPは北朝鮮の40倍あるというような決定的な力の差が北朝鮮の冒険を抑えてきたのかもしれないし、ペルシャ湾の場合、イランも原油を輸出しているので紛争を起こしたくないという要素があるだろう。

 逆に米軍の基地があることが敵性国に恐怖を与え、対抗行動を取らせることもある。2008年のグルジア戦争、2014年のウクライナ紛争は、ロシアがNATOの拡大を恐れたがためである。

 海外に基地があれば、紛争が起きた際の軍事介入が容易になるという意見もあるが、最近40年間の主要な紛争では、米国はその度に新しい拠点を設置できているのである。(注:新しい拠点の設置には時間がかかる。そして新しい拠点は、既存の海外基地とのネットワークで初めて機能している)

 基地がなくとも、航空兵力は空母で移動できるし、陸軍部隊も本土から例えばクウェートに22日以内に空輸することができる。ドイツの基地から派遣する場合と4日しか違わない。(注:緊急即応用に編成されたストライカー戦闘旅団は、世界のどこへでも96時間以内に派遣されることになっている。しかし東アジアの場合、陸・海・空の兵力を併せ持つ海兵隊が地域に配置されており、紛争には即応できることが、欧州と決定的に異なる)

 海外の基地は、敵国からの攻撃に対して脆弱である。北東アジアにおける米空軍の施設の90%は中国の弾道弾の射程内にある。

 そして海外に基地を置いていることにより、米国にとって意味のない紛争に巻き込まれやすくなる。第二次大戦後、米国防関係者達は朝鮮半島に戦略的有用性はないとして、軍の撤退を何度も進言したが実現せず、朝鮮戦争が起きてしまった。

 海外の米軍が戦後の世界の平和維持に資してきたと主張する者がいるが、米軍の存在よりも、核戦争を起こしてしまうことに対する恐怖心、戦争は悪だという考えが人々の心に定着したことの方が、抑止要因として大きいだろう。

 米軍の海外展開は、米国の真の国防利益に根差すものでなければいけない。

 米国は、他国を守り、紛争地域を安定させようとするよりも、同盟諸国が自分の安全保障の負担を負うよう勧め、自分の核心的利益が危険にさらされていないような場合には、地域の紛争からは距離を置いて、引き込まれないようにせねばならない。

出典:John Glaser,‘The Case Against U.S. Overseas Military Bases’(Foreign Affairs, July 25, 2017)
https://www.foreignaffairs.com/articles/2017-07-25/case-against-us-overseas-military-bases


新着記事

»もっと見る