本件論説の議論自体は、これまでCato研究所の別の研究員等が唱えてきたもので、目新しい点はありません。本件論説の目は粗く、軍事については素人的です。但し、安倍総理のトランプ大統領との会談で下火になった「日本タダ乗り論」、「日本核武装論」がまた共和党の茶会派によって蒸し返されてくる可能性を示すものではあるかもしれません。
本件論説のような主張は、小さな政府を唱える共和党の茶会系等がつとに唱えてきたところです。しかし、これを実行するのはまず政治的に難しいでしょう。海外基地の削減は米軍全体の縮小につながり、米国内で強い反対の声が起り得ます。国防予算は年間約6000億ドルで、これに依存して生活する米国民は少なくありません。加えて退役軍人省は、32.7万の職員と1823億ドルの予算を持つ2番目に大きい省で、退役軍人約2000万名に対する医療・住宅ローン等生活保障全般を提供しています。格差の大きな米国社会で、所得水準の低い階層にとっては、軍に応募することが社会の階段を昇る有力な手段であり(除隊後、大学に優遇的に入学できる)、社会保障にもなっているのです。
本件論説のような主張は、有事防衛のため、そして抑止力としての米軍を必要とする日本にとっては不都合なものです。日本が米国にとって持っている有用性につき、広報活動――但し相手を見てのきめの細かい――を展開していかなければならないでしょう。その中で、最も効果的な広報は、他ならぬ茶会派等、海外基地縮小論の源泉に対し、彼らの思考方法(自分の利益重視。コスト・パフォーマンス至上)に沿う形で説得することでしょう。つまり「在日米軍基地と日米同盟は、米国のアジアにおける足場である。そして米海軍は海上自衛隊との関係を失えば、その戦力をかなり低下させるだろう。また、日本が基地費用を大幅に負担しているため、米本土以上にコスト・パフォーマンスの高い軍事力運用ができる。そして米軍は日本に陸軍を殆ど置いておらず(2000名程度)、有事にはハワイ、本土から兵力を送る仕組みに既になっている。つまり在日米軍基地は、米国にとっても良い取引なのだ。他方、米国が日本を失えば、米国はアジアにおける足場を大きく失い、中国に対する交渉ポジションを低下させることになるだろう」ということを、彼らに何度も繰り返すのです。
なお、Cato研究所の所論は、本件論説よりはるかに激しいものです。上席フェローのDoug Bandowなどは、「米国は駐留軍を日本から引き揚げ、防衛の責任は日本にまかせるべきだ。その結果が軍事バランスに及ぼす変化について、米国は責任を負わない。米中経済関係を強化すべきである。アメリカは、東アジアに関与し続けるではあろうが、軍事的な覇権を維持する必要はない。中国にはアメリカの領土を脅かす力など無い」との趣旨を述べています。
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