2024年12月8日(日)

補講 北朝鮮入門

2017年9月13日

 国連安全保障理事会が9月11日(現地時間)、北朝鮮による6回目の核実験(9月3日)に対する制裁決議2375を採択した。米国が作成した原案には北朝鮮に対する石油の全面禁輸などが入っていたが、北朝鮮国内で大きな混乱を生みかねないと考える中国とロシアが消極的だったため最終的には一定の上限を明示する妥協案となった。今後のためにカードを温存しておくという意味もあろう。

 制裁の目的は懲罰ではなく、核・ミサイル開発に関連する活動を完全に中止するよう北朝鮮に政策変更を求めることだ。しかし、経済制裁だけで核開発放棄などという大きな政策変更を強いるというのは無理のある考え方であり、外交交渉なしに目的を達することは不可能である。今回の制裁決議についても、北朝鮮経済に一定程度の影響を及ぼすものの、核・ミサイル開発を止める効果はゼロに等しいと考えられる。北朝鮮に対する制裁決議は2006年10月の第1回核実験で採択された決議1718以降、今回で9回目だ。これまでの制裁決議が功を奏してこなかったことは議論の余地がない。

(gettyimages/Drew Angerer)

政策変更を強いられることを嫌う北朝鮮

 北朝鮮については、もともと閉鎖的な体制であることや朝鮮戦争(1950〜53年)以降に米国から制裁をかけ続けられて「制裁慣れ」していること、対外経済の規模が小さいことなども、経済制裁の効果を期待できない理由として語られる。ここでは、そういった論点とも少し違う「制裁への耐性が強い北朝鮮体制の特徴」について考えてみたい。

 北朝鮮はそもそも他国によって政策変更を強いられることを極端に嫌う。冷戦期には、中ソ両国からの影響を排除しつつ自主路線を歩もうとした。それが北朝鮮憲法第3条で国家の指導指針と規定される「主体思想」である。主体思想を守ってきた結果、ソ連のように崩壊することもなかったし、中国のような改革開放をしなくても体制を護持できた。北朝鮮は、そうした自信を持っているのだ。

 核実験2日前となる9月1日付けの朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』は、重鎮の董泰官(トン・テグヮン)論説委員による政治論評「偉大な強国の時代」を掲載した。北朝鮮に対して持たれているイメージとは違うかもしれないが、『労働新聞』の論説記事は署名入りが原則となっている。特に重要な論説の筆者は限られており、董氏はそのうちの1人である。

 董氏の論評は、北朝鮮の国際的地位について「人工衛星の製作及び打ち上げに成功し、水素爆弾と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有した世界6大強国」、「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を保有する世界の5大強国」、「移動式発射台を利用したICBM発射技術を保有している世界の3大強国」の一つにのし上がったと強調した。制裁に屈しないで核とミサイルの開発を続けてきたことによって、米国やロシア、中国などという大国と肩を並べられたという自己認識だ。

 論評はさらに「世界で最も強く偉大な人民が保有していることにより、朝鮮は事実上、世界一の強国、天下無敵の国である」とまで主張する。そして「いくら『制裁』と『圧迫』の魔の手がいたるところに広がっても、地球上の敵対勢力が群れを成して襲い掛かってきても、偉大な精神力に全ての戦略兵器を握ったこの朝鮮は、百戦百勝するだろう」と強調する。


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