「戦争になるかもしれないなんて怖がる韓国人はいない。テレビのニュースで、日本で騒ぎになってるというのは見たよ。『ふ〜ん』って感じだったけど」
ソウル市内の観光地、仁寺洞(インサドン)の土産物屋の男性店員(32)は関心なさそうに話した。
トランプ米大統領が原子力空母「カール・ビンソン」を朝鮮半島周辺に派遣し、北朝鮮への先制攻撃に踏み切るかもしれないなどと日本で騒がれていた4月下旬。大統領選取材のため訪れたソウルは、予想通りの平静さだった。
私の知る限り、ここ20年ほどはいつもこうなのである。免疫のない日本や米国で大騒ぎになると、全く騒がれない韓国では迷惑がられる。危ないと騒がれると観光客が来なくなるかもしれないし、カントリーリスク評価にも悪影響が出るかもしれない。勘弁してほしいというのが本音だろう。13年春にも主に米国メディアで「戦争の危機」が騒がれたのだが、韓国政府当局者は外国メディア向けに「そんな危機はない」と必死に説明して回っていた。
ところが日本のメディアの中には、「北朝鮮情勢の緊張が、北朝鮮に融和的な文在寅(ムン・ジェイン)氏に不利に働く」などという“独創的”な記事も少なからず見られた。中には根拠を示さないまま「挑発行為の強行は北朝鮮への反発を強め、文氏と対立する候補にプラスに働くのは必至」と断定する記事まであった。残念ながら、これも「いつものこと」ではある。
正確だったのは「安保不感症」を憂う産経新聞
もちろん日本にも冷静なメディアはあった。代表格は産経新聞だったろう。
北朝鮮は、トランプ大統領と中国の習近平国家主席の初顔合わせとなる米中首脳会談の前日となる4月5日に弾道ミサイルを発射した。トランプ政権は首脳会談期間中にシリアを攻撃し、直後に空母「カール・ビンソン」の朝鮮半島派遣を明らかにした。北朝鮮のミサイル発射はいわば、「戦争の危機」論の幕開けとも言えるものだった。